成立の背景
この占いで使っている「十八変本筮法」は、南宋の儒学者・朱熹(朱子)が著した『周易本義』に記された「筮儀(ぜいぎ)」を直接の拠り所にしています。この筮儀は、『易経』の解説書「十翼」のうち「繋辞伝(けいじでん)」に書かれた「大衍の数」(五十本の蓍草で占う方法)の記述を、朱子が実際に使える儀礼の手順として整理したものです。五十本のうち一本を太極として立て、残り四十九本に対して「分二・掛一・揲四・帰奇」という操作を一爻ごとに三回繰り返して爻を決め、それを六爻分(合計十八変)行って一卦を導き出します。この手順は、当サイトの本筮法アニメーションに忠実に再現されています。
ただし、この占いは朱子の手順をそのまま再現するだけのものではありません。蓍草を使う筮法には古くから「蓍神」という考え方があり、蓍草そのものに霊性が宿るという信仰が伴ってきました。この占いは、その霊性を神道の祭式という枠組みで丁寧に奉斎することを根本に置いています。その思想的な背景にあるのが、江戸時代の学者・山崎闇斎が説いた「垂加神道(すいかしんとう)」です。神道の祭祀と儒教の教え(易の理)を一つに融合させたこの思想は、神を敬う心で天の意志を問い、人としての正しい道を探ることを目指しています。
令和元年、皇學館大學の文化祭「倉陵祭」でこの伝統的な儀礼を実際に再興しました。令和8年には、その一連の儀礼をデジタル技術で忠実に再現し、誰でも参加できる形にまとめました。なお現在のシステムはコンピュータによる疑似乱数を使っていますが、これは現時点での技術的な制約によるもので、将来的には本物の量子乱数を使った仕組みに改良する予定です。
易占の原理とデジタル化の意義
この易占の核心は、「確率・神名・祭式・祝詞・本筮法・観測と解釈」という6つの要素で成り立っています。
本来、竹の棒(筮竹)を手で操る行為は物理的には再現できますが、占う人が「無心」の状態で行うことで、純粋な「偶然(確率)」の場が生まれます。当サイトではこのプロセスをコンピュータによる確率処理として再現しています。単なるデジタルのゲームではなく、確率的な選択のプロセスを、神道の儀礼という枠組みの中で行うものです。
科学的な視点と「観測」の考え方
かつて科学の世界では「未来はすべて計算で決まる(決定論)」と考えられた時代もありましたが、現代の量子力学はその考えを否定しています。自然界の根本には、決まりきらない「確率」が横たわっているのです。
この占いサイトでコンピュータが導き出す結果は、まだ確定していない未来の可能性のひとつです。あなたが自分の名前を明かし、誠実な気持ちで神前に進み、ボタンを押すこと——その瞬間、無数の可能性の中からあなたへの「卦(答え)」がひとつに定まります。これは量子力学で言う「観測による波動関数の収縮」に例えられる現象であり、神道の観点では蓍神の神意が現れる瞬間として捉えます。
天の意志(天命)という目に見えない力は、現代科学の言葉で言えば「確率的な選択の確定」として姿を現すのです。
占いに臨む心がけ
一、易占は自らの道を考える手がかりです。結果に縛られず、あくまで指針としてお受け取りください。
二、卦の解釈は、思い込みを交えず経典の教えに沿って行ってください。
三、問いはできるだけ具体的に。占いに臨む前に、何を知りたいのかを自分の中で整理しておいてください。
四、先入観を手放し、静かな心で易に向き合ってください。
神道式本筮法による易占の成立
神道式本筮法による易占は、漢土の經典たる四書五經の一つ『易經』周易に由來する占法に基づくものである。その根幹は『易經』の解説書として傳へられる「十翼」繫辭傳に記された筮法に基づく十八變本筮法にある。
古來、蓍草を用ゐて卦を立てる此の筮法は、天道の變化を象り、陰陽消長の理を以て吉凶を觀る方法として傳へられて來た。
また漢代の思想家・王充の著した『論衡』卜筮篇には、卜筮の信仰に關して次の如き文言が見える。
俗信卜筮,謂卜者問天,筮者問地,蓍神龜靈,兆數報應,故捨人議而就卜筮。
此の文に於いて「蓍神龜靈」と記されてゐることに着目し、蓍草を用ゐる筮法に於いては蓍草そのものが靈性を宿す媒介として認識されてゐたことが窺はれる。
神道式本筮法による易占は、此の「蓍神」の觀念を基礎とし、神道祭祀の作法を以て之を整へ、蓍神を奉齋し、祭式の中に於いて筮を行ふ方法として、東洋文化硏究會により令和元年に體系化されたものである。
但し此の方法は、神道と儒教の兩傳統に通曉する者にとりては自然に導き得る思想的結合であり、特定の人物或は團體を以て始祖とするものではない。唯、過去に於いて明確なる記錄として殘らず、また一つの體系として整理されてゐなかつたものを、近年になり改めて整理し、明文化したに過ぎない。
なほ、現在の電子的實裝に於いては計算機による疑似亂數を用ゐてゐる。これは現時點の技術的制約によるものであり、眞の量子亂數を用ゐた仕組みへの改良を將來的に予定してゐる。
神道式本筮法による易占の原理
神道式本筮法による易占の核は、次の六要素によつて構成される。
一、確率 二、神名(蓍神) 三、祭式
四、祝詞 五、本筮法(十八變筮法) 六、觀測および解釋
易占に於ける卦の成立は、蓍草を操作する十八變の手續を經て定まる。その結果として得られる卦象は、六十四卦および三百八十四爻の組合せとして顯れる。
此の過程は外見上は偶然的操作に見えるが、近代自然科學の知見に照らすとき、そこには確率的選擇が働いてゐる。十八變筮法に於いて蓍草の分割が繰り返されることにより、最終的に六十四卦・三百八十四爻の体系のうち一つの卦象が選ばれるが(当サイトでは変爻を含む三百八十四通りの爻レベルで完全対応する)、これは統計的確率に基づく選擇過程として理解することができる。
近代自然科學との關係
十八世紀末から十九世紀初頭、ピエール=シモン・ラプラスは、宇宙の全粒子の位置と速度を完全に知り得る知性が存在すれば宇宙の未來と過去は完全に計算できるといふ思想、いはゆる「ラプラスの惡魔」を提示した。
しかし二十世紀に入り、量子力學の成立により此の決定論的世界觀は大きく修正された。ヴェルナー・ハイゼンベルクの提示した不確定性原理は、粒子の位置と運動量を同時に完全には決定できないことを示した。さらにマックス・ボルンは量子状態を表す波動關數の二乘が粒子の存在確率を表すことを示し、自然現象の記述に確率が本質的役割を持つことを明らかにした。
また物理法則の多くは對稱性を持つが、實際の自然界ではその對稱性が一つの結果として破れる現象、すなはち對稱性の破れが存在する。この場合、理論上は複數の可能性が存在するが、實際にはその中の一つが選ばれる。その選擇には微細な揺らぎ、あるいは確率的過程が關與すると理解されてゐる。
神道式本筮法による易占に於いても、筮竹の操作によつて複數の可能性の中から一つの卦が成立する。此の過程は量子力學に於ける波動關數の收縮に比すべき「確率的選擇の確定」の瞬間を、祭式と祝詞を以て整へ蓍神を奉齋することにより、象意を解釋するための宗教的儀禮として行はれるものである。
心得
一、易占は天道の象を觀る助けと心得べし。
二、卦象の解釋は經典に基づき、私意を交へざることを要すべし。
三、結果を恐れず、亦結果に依存せざる心を保つべし。
四、占的はできる限り具體的に絞り込み、抽象的な問ひを避けるべし。
五、御自身がいかなる考へを持ち、何を求めてゐるかを明確にした上で筮前の審事を行ふべし。
六、筮前は先入觀を捨て、無念夢想・寂然不動にて易に臨むべし。