冬いたる

雅な冬の情景
(一)
紅葉散り
松の梢に
雉子鳴く
静けき里に
山影白く包みて
冬いたる
現代語訳 紅葉が散り
松の枝先で
雉(きじ)が鳴き
静かな里を
山の白い影が包んで
冬がやってくる
(二)
霜柱
芦辺に掛かり
鴛鴦は
川の奥深く
水の音ひそと揺蕩ひて
冬いたる
現代語訳 霜柱が
あしの生えた川辺に立ち
おしどりは
川の奥深く小さな水音に包まれながら
穏やかに漂ひ
冬がやってくる
(三)
梅の香を
早くも仄と
待ちわびて
雪の便りを
春待ち人の胸にして
冬いたる
現代語訳 梅の香りを
もううっすらと
待ち望み
雪のたよりを
春を待つ人の胸に受け取り
冬がやってくる
(四)
雁が音は
空を渡りて
有明の
月の光に
遠き里をば示しつつ
冬いたる
現代語訳 渡り鳥の雁が
空を移動して
明け方の
月の光に
遠い里を示すように
冬がやってくる
(五)
木枯や
囲炉裏の煙
たなびきて
かすかに温み
一眠りいざ安らひて
冬いたる
現代語訳 木枯らしの風に
囲炉裏の煙が
たなびいて
ほんのりあたたかく
ひと眠りしながら安らいで
冬がやってきている
冬いたる