【運勢】
落ち着きを持たなければならないが、周りの状況がそうはさせないだろう。
私心に惑わされ易いので、私心を感じないように生きる事が大切である。
悪い事から極力避けて、直く、正しく生きるのが良い。
【原文】
《卦辭》
咸(かん)は亨(とほ)る。貞に利(よろ)し。女を取る吉なり。
彖に曰はく、咸は感なり。柔上りて剛下る。二氣、感應(かんわう)して以て相與(そうよ)す。止(とどま)りて說󠄁(よろこ)ぶ。男、女に下る。是を以て亨り、貞に利し。女を取りて、吉なり。天地感じて萬物化生す。聖人人心を感ぜしめて、天下和平󠄃。その感ずる所を觀て、天地萬物の情見るべし。
象に曰く、山上に澤有るは咸。君子以て虚にして人に受く。
《爻辭》
九四。貞吉なれば、悔い亡ぶ。憧憧として往來すれば、朋(とも)、爾(なんぢ)の思ひに從ふ。
象に曰はく、「貞吉なれば悔い亡ぶ」とは、未だ感の害あらざるなり。「憧憧として往來す」とは、未だ光大ならざるなり。
【解釋】
〔王弼の解釋〕
《卦辭》
陰陽二気が揃ってはじめて萬物が化生する。
天地万物の樣は感ずるところに現れる。
同類でないものは心を通わせることが難󠄄しい。
陰は陽に応じるものであるが、下でなければならない。
下に在って初めて吉である。
虚心になって人の意見を受け入れれば、物は感応する。
《爻辭》
上卦の初めである四爻にあって、下卦の始めである初爻に応じている。
体でいうと股の上にいる。
二つの卦が始めて交わり、感じる。
そしてその志が通じる。
心が通じ合うのである。
物が感じ始めたときに、正しい方向に行かないのであれば、害を生じる。
だから正しくあることに気をかけなければならない。
そうすることで吉を得る。
害があると感じていない。
今のうちに正しておけば後悔しない。
〔伊藤東涯の解釋〕
《卦辭》
咸は感じることである。
反転すると䷟雷風恒になる。
恒の初爻がこの咸の上爻になったのである。
恒の四爻が下って咸の三爻になったのである。
つまり、柔が昇って剛が下りている。
陰陽二気が通じ合っているのである。
内卦は止まり、外卦は喜ぶ意󠄃である。
☶艮の少男を☱兌の少女に下す。
皆和順している。
物事がうまく行き、正しくしていれば害はない。
人が交わる時は、互いが得るものがないと心が通じ合わない。
妄動して心の通わせあいが正しくないと、良くない。
《爻辭》
憧憧とは往来が絶えないことである。
この爻は感じている。
股の上、背中の下に位置する。
陽でいて陰の位に居る。
初めて心が通じ合ったが、それは正しくなく後悔する。
正しさを失わず、私心なく有れば問題ない。
よく往来して人を訪ねて行けば、同類のものが心を通わせるようになるが、趣向が少し異なる。
ただ心が通じ合るからと言って何も考えないでいると、良い付き合いとならない。
〔根本通明の解釋〕
《卦辭》
是は下経の始まりである。
上経は天地を以て示した所で、下経は人を以て示す所である。
人倫の道は夫婦が始まりであるので、此の卦が下経の始まりなのである。
『序卦伝』では、この卦の始めに宇宙の発生の順番を「天地、萬物、男女、夫婦、父子、君臣、上下、礼儀」としており、夫婦は父子君臣に先立つ。
上卦は沢、下卦は山で、沢の水気が山の上に十分に上った象であり、山の気と沢の気と相交わっている。
兌は少女、艮は小男である。
上は外、下は内であるから、男子が外から妻を迎え入れる所の象である。
男女正しき所を以て相感じるのであり、情欲の私を以て感じるのではいけない。
そこで「咸」の字は下心のつく「感」を使わない。
[彖伝]
咸は無心で咸じる所を尊ぶ。
情欲の私があってはいけない。
天の気が地の気の下に来て、地の気が上に上る所である。
婚姻の礼は皆男子の方から女の方へ下って求める。
天地陰陽相感じることで、萬物が生じるのである。
[象伝]
山上に水気が上っているのが咸の卦である。
山から豊富な水が出てくるのは、山には土が満ちているようで、水気を受け容れるだけの虚なる所がある。
それが為に君子も我を虚しくして、人に教えを受ける所がある。
我が満ちていてはいけない。
《爻辭》
四爻から上卦である。
三爻が又であり、それより上であるから丁度心臓の邊りである。
心は咸にとって非常に重要である。
心が正しく動かない場合は物事はうまく行かない。
心が欲で動くことを戒めるべきである。
四爻は陰の位であるが、陽である。
正しくないところがある。
心が動きやすく、不安定であるから、正しさを守るように心掛けなければならない。
心は欲がないと動かず、欲があると動く。
二爻から四爻までが☴であり、一番欲が生じやすい位置なのである。
初爻と応じていて仲が良い、両者はよく往来する。
この卦は初爻と四爻、二爻と五爻、三爻と上爻、すべてが応じていて往来が激しいのである。
そうすると同類が集まるが、心の悪い者達も集まり不正が起きやすいのである。
[象傳]
予め心を正しくしていて、悪いものを避ければ後悔しないのである。
心が揺れ動いていては心が明󠄃らかでない。
明󠄃らかでなく暗いので欲が生じ迷う。
未だ心が正大に至っていないことを戒めなければならない。