【運勢】
世の中は、酷く衰弱し、耐え難い時にある。
道理に従い、正しさを主張しても良い方に転じないのでとても悪い。
徳のない者を相手にせず、正しさは内に秘めておくと良い。
【原文】
《卦辭》
剝は往く攸有るに利しからず。
彖に曰く、剝は剝なり。柔剛を變ずるなり。
往く攸有るに利しからずとは、小人長ずるなり。順にして之を止む。象を觀るなり。君子は消息盈虚を尚ぶ。天の行なり。
象に曰く、山、地に附く剝。上以て下を厚うし宅を安ず。
《爻辭》
牀(しょう)を剝(はく)するに辨(べん)を以てす。貞を蔑(ないがし)ろにす。凶。
象に曰はく、牀を剝するに辨を以てすとは、未だ與(とも)有らざるなり。
【解釋】
〔王弼、伊藤東涯の卦辭〕
剝は割くの意󠄃である。
下から陰が侵食し、最後に上爻だけに陽が残っている。
これは徳の無い者がはびこり、有徳者が衰退している時である。
このような時は何か事を起こす時ではないと、強く戒めるべきである。
〔王弼の爻辞〕
蔑ろは極めて甚だしい言葉である。
辨は足の上である。
剝の道が深刻化している。
転じて物のあるところを滅そうとしている。
柔が長じて正を削る。
物が棄損される。
〔伊藤東涯の解釋〕
辨は牀の幹である。
上下を分辨する。
この爻は剝があって、内卦の中にある。
上に応じる爻がない。
陰が徐々に剝して上る。
進んで牀の幹に及んだ。
また、小人がどんどん盛んになる。
もし君子があって、ともに力を尽くし、志を同じくすれば、小人に勝てる。
その友が居ないので、正しくしていても悪くなる段階となる。
〔根本通明の解釋〕
《卦辭》
剝は刀で削り取っていくという意味である。
徳の無い者が削り取りながら有徳者にせまっていくところである。
このような時には有徳者は遁れておくのが良いのである。
[彖傳]
剝にはものを破る、落とすという義もあるが、この場合は削り落とすの意󠄃である。
小人が世の中の隅々にはびこっているので、君子たるものはどこにも行かない方が良い。
そして正しい行いをつづけていかなければならない。
今はすべてが陰になろうとしているが、固く道徳を守り、一陽来復に備えておくべきである。
[象傳]
地の上に山がある。
地は民であり、山は君主である。
地が厚ければ山は盤石であるように、民の生活基盤が盤石であってこそ、君主は盤石なのである。
卦の形は牀のようである。
牀とは今の机のことで、一番上の上爻が机で、五爻までの陰爻が足である。
《爻辞》
辨の字平の字と通じており、平らかな板は一番上の陽爻である。
その板までも段々と破って往く。
つまり正しい道を滅ぼして往くから、凶である。
[象伝]
牀(しょう:寝台)の上まで、害するものが上に昇って来るが、未だ正しい者を助けて呉れる者が無い。
其処で何処までも進んで害して往く。