7/31 (金) ䷫ 天風姤(てんぷうこう) 五爻

【運勢】

物事はとても良い常態を維持しているが、志が高く無ければ続かない。

志を同じくする仲間と、考えを共有する事が大切である。

邪な考えは、互いに戒める事で自然と無くなるだろう。

【原文】

《卦辭》

姤は女壮なり。女を取るに用ゐることなかれ。

彖に曰はく、姤は遇なり。柔剛に遇ふなり。女を取るにもちゐる勿れ。與に長かるべからず。天地相ひ遇(あ)ひて、品物咸(ことごと)く章なり。剛中正に遇ひて、天下大いに行はる。姤の時義大なるかな。

象に曰はく、天の下に風有るは姤。后以て命を施して四方につぐ。

《爻辭》

九五。杞(こ)を以て瓜を包む。章を含めば天より隕(お)つることあり。

象に曰はく、九五の章を含むは中正なるなり。天より隕(お)つること有りとは、志、命を舎てざるなり。

【解釋】

〔王弼の解釋〕

《卦辭》

姤は遇うことである。

柔が剛に遇う。

人でいうと女が男に遇󠄄うのである。

一人の女が五人の男に遇󠄄う。

大変強靭な女である。

取るべきでない。

剛が中正であるから天下はあまねく王化󠄃に帰すのである。

言義は見えるところを表現しきれない。

《爻辭》

杞は木の名である。

肥沃な土地にある。

五爻は尊󠄄位を履んで応じるものがない。

地を得て食べない。

威德を持ちながら、まだ発現していない。

天命が下りていない。

しかし、良い場所に居り、剛で中を得ている。

だから志は天命を諦めていないのである。

傾き落ちていくことはない。

〔伊藤東涯の解釋〕

《卦辭》

姤は遇󠄄うことである。

一陰が下に生じて、五つの陽にあったのである。

一陰が五つの陽に対峙する。

その大壮はすさまじいが、陽が必ず勝つ。

このような陰を用いてはならない。

陰陽が互いに對待(たいたい)することは、天地の常経である。

陰が盛んであると陽が損なわれる。

臣下が君主に背くのも、婦が夫を凌駕するのも皆陰が盛んだからである。

姤の卦が戒めるところである。

《爻辭》

杞は高大な木である。

杞梓(きし)のことである。

瓜はおいしい木の実で、下に在るものである。

ここでは初爻を言う。

剛であり中正。

尊󠄄位に居て二爻が応じていない。

賢い君主が良い臣下を得ていない。

そして至誠は賢者󠄃を求めて下に行く。

広大な樹木が下に在るおいしい果実を覆うようなものである。

それは素晴らしいものを秘めているが、まだ表に現れていない。

下は誠に感応して応じて來る。

それは天が授けてことで、人力ではない。

五爻は中正の徳がある。

だから優れたものを持っているという。

至誠の道は鬼神をも感ぜしめるべし。

もし、至誠にして賢人を求めたのであれば、その位を降りて、浮世を離れて静かに暮らしたら、応じるものがない状況が変わり、応じるものが現れる。

予期できないことがある。

昔から聖人が賢臣に遇うときは、みな至誠の道󠄃を履んだのである。

高宗が傅說󠄁を得、文王が太公望を得たのがまさにそれである。

〔根本通明の解釋〕

《卦辞》

この卦は初六の陰爻が主役で、他の陽爻は賓客のような訳になる。

陰は長じて、次第に陽を侵食していく。

陰爻つまり女の方から、進んで陽爻に遇う所がある。

其処で女を娶るという方へ、この卦を用いてはならない。

[彖伝]

「遇」は多いがけない所で遇うと云う義である。

柔は剛に遇うと云うのは、女の方から進んで男に遇うという義である。

このような女を娶ると、次第に増長して往くから娶ってはならない。

剛中に遇うというのは、九五の剛が九二の賢人に遇う所を云う。

賢人は朝廷へ出ようとする初六を抑え止める。

そのため剛は賢人と相謀って、初六を正しくする。

[象伝]

天の下に風が旋ぐるように、天下に命令を下す。

四方に遍く告げ諭して、能く治め斉(ととの)える。

旧弊を除きはらって政を以て天下を新たにする。

《爻辞》

瓜は初六の小人、𣏌は柳の大木のことで九二の賢人である。

九五の天子が、九二を以て、初六を包んで外に出さない様にする。

瓜は甘く美しいが、毒がある。

小人はいくら除いても、天から降ってくるように、何時となしに出てくる。

[象伝]

九五は中庸の徳を以て、天下を正しくして往く。

天命で小人が降って来ても、九五の名君は志をもって、これを引っ繰り返す。

人智を以て、世の乱れを抑える。

天命だから仕方が無いということはいけない。

人間の力を以て、天命を回(か)えると云うのが易の教えである。

7/30 (木) ䷴ 風山漸(ふうざんぜん) 二爻


【運勢】

何事も、段階を踏み進む事が大切である。

物事の土台がしっかりしており、正しさを守っているので、進めば上手く行くだろう。

大事を成す為に、自身の能力を発揮するのであればとても良い。

【原文】

《卦辭》

漸は女歸いで吉。貞によろし。彖に曰はく、漸は進󠄃むなり。女歸いで吉なり。進みて位を得るは往きて功あるなり。進󠄃むに正を以てす。以て邦を正すべきなり。その位剛。中をえる。止りて巽。動いて窮まらず。象に曰はく、山上に木あるは漸。君子以て賢德にをりて風俗を善くす。

《爻辭》

六二。鴻、磐に漸(すす)む。飲食衎衎(かんかん)たり。吉。

象に曰はく、飲食衎衎たりとは、素飽せざるなり。

【解釋】

〔王弼の解釋〕

《卦辭》

漸は漸進の卦である。

止まりて巽。

だから適度に進む。

巽に留まるから進󠄃む。

だから女嫁いで吉なのである。

進んで正しいものを用いる。

進んで位を得るとは五爻を指す。

この卦は進むことを主る。

漸進して位を得る。

《爻辭》

磐は山にある岩の盤石なものである。

進んで位を得る。

中に居て應ず。

本は食い扶持がなかったが、進んで得ることが出来た。

その喜びが第一である。

〔伊藤東涯の解釋〕

《卦辭》

漸は次順番通りに進むことである。

巽は長女、進んで上に在る。

進めることをゆつくりしなければならないのは、女が嫁ぐ時である。

五爻が位を得て、剛が中にある。

家を正し、功があるだろう。

君子が仕えるときは、進󠄃むに礼を以てし、退󠄃くに義を以てする。

五爻剛中の徳がある。

《爻辭》

磐は石の平らで安定したものであり、主に水辺にある。

和楽して漸にして柔順中正。

上は五爻に応じ、鴻が岸から立って、磐にたどりついたようなものである。

吉である。

己に徳があり、智を上から受けて、次󠄄に進む。

そして安住の地を得る。

飲食物は豊富にある。

〔根本通明の解釋〕

《卦辞》

漸は、小さな木が次第に成長して大木になるように、順序を立てて進んで往く意である。

この卦は鴻雁(こうがん)の象を取っている。

雁は水鳥で、陰鳥であるから、陽に能く従う。

そのため婚礼の時には、雁を以て礼を行う。

即ち、女が夫に従う義を取ったのである。

また臣たるものは、必ず君に従う。

国に生まれた者は、皆君に仕えなければならないと云う義も示している。

[彖伝]

女の嫁入りは、速やかにするものではない。

六礼といって、六つの段に分かれており、順次進んで往って婚礼が成る。

また天子は天下を治めるのに、先ず我が身を正しくする。

正しい所を以て、国家を正しくすることが出来る。

[象伝]

山の上に木がある。

君子はこの義を用いて、賢徳ある人物を高い所に据え、賢人の徳を以て社会風俗の悪い所を能く直して行く。

《爻辞》

六二は九五の天子と相応じている。

六二は天子から禄を受け、飲食に事欠かず安楽である。

身の上に不自由が無く、一家を養うにも十分である。

[象伝]

人間は安楽にしているだけで、何も働かず考えも持たず、空しく飲食に飽きていてはいけない。

しかし九二は、学問や徳を以て君の為に盡す所があるから、禄を賜り裕かなのである。

7/29 (水) ䷽ 雷山小過(らいさんしょうか) 二爻

【運勢】

普段通りの活動を大切にすると良い。

力を込める必要は無いが、小事に目を配る事が大切である。

物事が上手く進むのは、役割が定まっているからなので、調和を崩す様な事は避けなければいけない。

【原文】

《卦辭》

小過は亨る。貞に利ろし。小事に可にして、大事に可ならず。飛鳥之れが音を遺す。上るに宜しからず、下るに宜し。大吉。

彖に曰はく、小過は小なる者󠄃過ぎて亨るなり。過ぎて以て貞に利し。時とともに行ふなり。柔、中を得たり。是を以て小事に吉なり。剛、位を失ひて不中。是を以て大事に可ならざりなり。飛鳥の象有り。飛鳥之が音をのこす。上るに宜しからず、下るに宜し。大吉とは、上るは逆にして下るは順なるなり。

象に曰はく、山上に雷有るは小過。君子以て行は恭に過ぎ、喪は哀に過󠄃ぐ。用は儉に過ぐ。

《爻辭》

其の祖󠄃を過ぎて其の妣に遇ふ。其の君に及ばずして其の臣に遇ふ。咎(とが)无(な)し。

【解釋】

〔王弼の解釋〕

《卦辭》

飛ぶ鳥がその声を残して、悲しみながら場所󠄃を求める。

上には適当な場所がなく、降れば安住できる。

上に行けば行くほど悪くなる。

飛ぶ鳥と同じである。

小過の小はおよそ小事全般を言う。

小事を過ぎて、うまく行く。

過ぎれば正しくしていればよい。

時宜にかなうのである。

恭しく儉約󠄃していればよい。

大事をなすは必ず剛がいる。

柔で大を犯すのは、剝の道である。

上に昇ってはならず、降るのが良い。

これは飛ぶ鳥の象である。

《爻辭》

過ぎて遇うことができる。

小過があって位に当たる。

過ぎて遇󠄄うことが出來るのである。

祖󠄃は初めである。

妣は内に居て中を履む善いものである(二爻)。

初爻を過ぎて二爻に居る。

だからその祖󠄃(初爻)をすぎて、妣(二爻)にいるというのである。

過󠄃ぎるけれども僭越には至らない。

臣位を尽くすのみである。

だからその君に及ばず、その君に遇󠄄うのは咎めがないというのである。

〔伊藤東涯の解釋〕

《卦辭》

陽は大であり、陰は小である。

四つの陰が外に在り、二陽が内に在る。

陰が陽に勝っているので小過という。

陽が陰に勝るのが道理であるが、陰が勝って問題ない時もある。

二五は柔が中を得て、三四は剛であり、中でない。

卦の形は鳥が翼を広げているようである。

上に向って鳴くので、下には聞こえない。

下は順調で容易であるが、上昇は逆行するので難しい。

任務にも大小があり、位にも上下がある。

人の才分もそれぞれ違う。

柔は下位にあって小事を治めるのが良い。

それが分からなかった人が多く失敗してきたのである。

易は中に適うことを尊ぶ。

《爻辭》

三爻は陽で上に在るので父である。

四爻はその上に在るから祖󠄃である。

五爻は陰で祖󠄃の上に在るから祖󠄃妣である。

君は五を指し、臣は四を指す。

二爻は小過があり、三を過ぎて五に行く。

しかし、陰と陰で応じない。

そこで五爻まで行かずに四爻までにすれば陰陽が相性よく、咎めなし。

陰が過ぎる時にあるので、戒めなければならない。

〔根本通明の解釋〕

《卦辭》

小過の卦は全体でみると☵の卦になっている。

三爻と四爻が鳥の体であり、一二、五六が翼である。

何の鳥かといえば鶏である。

二三四爻に☴がある。

これが鶏である。

この卦は陰が過ぎる卦である。

陽は君で陰は臣下である。

君が鳥の体で、臣が鳥の翼である。

陰が過ぎるとは臣下が調子に乗っていることである。

だから小事は行われ、大事は行われない。

鶏が高く飛べる道理はない。

声だけ高く上がっても、体は高く上がらない筈である。

この場合、鷹に咥えられたとするとよい。

飛び去ってしまい悲しむ声だけが残るのである。

上に行かれてはもうどうしようもないが、下にいるのなら人でも何とか救出できるかもしれない。

[彖傳]

祭祀に於いて祭式の起居進退は小事であり、道徳は大事である。

しかし、小なることを徹底して、良くなることもある。

この卦は陰が多すぎる。

二爻も五爻も陰である。

だから大事をするには不利である。

君は常に民と共にあらねばならない。

[象傳]

大いなる山を、小なる雷が過ぎて行く。

君子はこの卦をもとに行いを恭しくする。

《爻辭》

二爻は臣たるものの正しい位置である。

君を拝するときはまずはじめに宗廟に参る。

☶艮は宗廟を表す。

君にすぐにあうのは憚られることであり、まずは付近にいる臣下に仕えるべきである。

[象傳]

臣たるものが君以上ではいけない。

それを戒めているのである。

7/28 (火) ䷁ 坤爲地(こんいち) 五爻

【運勢】

物事の土台がしっかりしており、秩序が乱れる事は無い。

人間社会での価値観に囚われると、先に進めなくなってしまうだろう。

率先して、物事に取り組む事で、人々に君子の道を説く事が出来る。

【原文】

《卦辭》

坤は元(おほ)いに亨(とほ)る。牝馬の貞に利(よ)ろし。君子往くところ有り。先(さきだ)つときは迷ひ、後るるときは主を得るに利あり。西南には朋を得る。東北には朋を失ふ。安貞にして吉。彖に曰はく、至れるかな坤元。萬物、資(よ)りて生ず。乃ち順にして天を承(う)く。坤、厚くして物を載す。德无疆に合ふ。含弘光大にして品物、咸(ことごと)く亨る。牝馬は地類。地を行くこと疆なし。柔順利貞は君子の行ふところ。先だつときは迷ひて道󠄃を失ひ、後るるときは順にして常を得る。西南には朋を得る。乃はち類と行く。東北には朋を喪ふ。すなはち終に慶有り。安貞の吉は地の无疆に應ず。象に曰はく、地勢は坤。君子以て厚德者物を載す。

《爻辭》

六五。黃裳は元吉なり。

象に曰はく、「黃裳元吉」とは、文、中に在るなり。

【解釋】

〔王弼の解釋〕

《卦辭》

坤は貞によろしい。

牝馬によい。

馬下にあって行く。

牝馬は柔順の至りである。

柔順を尽くして後にうまく行く。

牝馬の正しいものによろしい。

西南は人を養う地である。

坤の方角である。

だから友を得る。

東北は西南の逆である。

友を失う。

乾は龍を以て天を御し、坤は馬を以て地を行く。

地は形の名である。

坤は地を用いるものである。

両雄は並び立たない。

二人主が居るのは危うい。

剛健と對をなす。

長く領土を保つことが出来ない。

順を致していない、地勢が順わない。

その勢は順。

《爻辭》

黄色は中の色である。

裳は下を飾る。

坤は臣の道󠄃。

下を飾り、剛健さが無い。

そして物の情勢を極める。

理を通す。

柔順にして尊󠄄位にいる。

武を用いるのは良くない。

陰が盛んで、陽に変わられることも予想できない、文人が中を得る。

美の極みである。

大吉。

〔伊藤東涯の解釋〕

《卦辭》

坤の爻はすべて陰。

順の至りである。

牝馬は柔であり強く行く。

この卦は柔にして健である。

主に遇うとは、陽に遇うことである。

西南は陰、東北は陽。

順の至りでうまく行く。

君子まず行くところがあれば迷い、後に主を得る。

西南に行くと友を得て、東北に行くとその友は離れる。

正しいことだけをしていれば吉。

天の気を承け萬物を生ず。

陽に先んじてはならず、陽の後に行けばよい。

《爻辭》

黃は中の色である。

上を衣と言い下を裳という。

この爻は柔順中正で最尊󠄄位に居る。

自ら其の裳を着る。

元吉である。

君子の徳は人に承認されることを求めない。

盛徳の至りである。

坤は地の道󠄃である。

だから五爻だからと言って君主ではない。

ただ君子の道󠄃を言う。

〔根本通明の解釋〕

《卦辭》

坤は乾と對であり、乾は天、坤は地である。

牝馬の話が出るが、これは乾の方が牡馬であることをも示している。

臣たるもの、必ず朝󠄃廷に行って君に仕えなければならない。

しかし、無学では全く役に立たないから、そのためには朋(とも)をもって助け合わなければならない。

西南は坤である。

☴巽の卦、☲離の卦、☷坤の卦、澤兌の卦は陰の卦である。

そこで、西南に陰の友が集まっている。

朋は友と違う。

一緒に勉強するもののことを朋というのである。

友とは朋の中でも特に親しいものである。

朋の字は陰で、友の字は陽である。

始めのうちは陰の友達が必要である。

そこで西南が良いのである。

また、東北は朝󠄃廷を意味する。

乾の気で萬物は始まり、坤の気で萬物に形が備わる。

坤の卦は地の上に地を重ねているから、地盤は盤石である。

天の気がどこまでも拡大していくのに、陰の気はどこまでも従うのである。

牝馬が牡馬に従うように、臣下は君主に仕えるのである。

先に行こうとしてはいけない。

常に後ろについていくべきである。

臣下は朋友を失うことになるが、君主に仕えることでそれを克服するだけの喜びを得る。

慶(ケイ、よろこ)びは高級な臣下の卿(ケイ)に通じる字である。

上に鹿の字が附くが、昔は鹿の皮を以て喜びを述べた。

人々が集まってくるのである。

[大象傳]

地が二つも重なっているので盤石である。

物を載せても耐えられる。

つまり様々なことを任されても耐えられる存在なのである。

《爻辭》

鄭玄(じょうげん)の説に従うと、舜が堯に試されて政治をし、周󠄃公が成王が幼少だったので政をしたことを表すという。

坤は臣たるべきものであり、五爻の君主の座にいるはずがない。

それなのに鄭玄は臣下が君子を代行したという。正しいことではない。

鄭玄は『書経』の注釈で周󠄃公旦が王位についたかのような書き方をしているほどである。

この坤は陰であるから、皇后を表すとするのが正しい。

腰より下に着るものを裳といい、腰より上に着るものを衣という。

衣裳の衣が天子、裳が皇后である。

黄色は五行の土の色である。

乾爲天の五爻の王の配偶の皇后である。

だから元吉である。

7/27 (月) ䷔ 火雷噬嗑(からいぜいごう) 上爻

【運勢】

「悪い心持ち」と言われる所は直さなければならない。

自分が納得するか否かと考える事自体、恐ろしい所である。

心持ちは容易に変えられないが、思い切りを持たなければ、後悔するだろう。

【原文】

《卦辭》

噬嗑は亨(とほ)る。獄を用うるによろし。

彖(たん)に曰はく、頤(おとがひ)の中に物有るを噬嗑といふ。噬(か)み嗑(あは)して亨る。剛柔分かれ、動いて明󠄃なり。雷電合して章なり。柔、中を得て、上行す。位に當たらざると雖も、獄を用うるに利しなり。

象に曰はく、雷電は噬嗑。先王以て罰を明󠄃らかにし、法を勅ふ。

《爻辭》

上九。校(かせ)を何(にな)ひ、耳を滅する。凶。

象に曰はく、校を何ひ、耳を滅するとは、聡明󠄃らかならざるなり。

【解釋】

〔王弼の解釋〕

《卦辭》

噬はかむこと。

嗑は合わせることである。

物は親しくなかったら、間を開けるものである。

物が整わず、過ちがある。

噛み砕いて合わせると通ずる。

噛まなければ通じない。

刑に服して改心するのは獄の利である。

剛柔が分かれて動けば乱れず、明らかである。

雷電が合わされば明るい。

獄に用いるべきである。

五爻が主爻である。

五爻は位に当たっていないが、獄に用いるのに良い。

《爻辭》

極刑に処す。

惡を積みて改めないものである。

いくら刑に服しても改めないので、絞首刑となり、耳を失う。

耳を失っても改めない。

これほどの凶はない。

〔伊藤東涯の解釋〕

《卦辭》

噬嗑は嚙合わせることである。

物が口の中に入っている。

これを嚙合わせるのである。

上下に二陽があるが、これが口である。

四爻の陽爻が口の中のものである。

内卦は動いて外卦は明󠄃るい。

この卦は賁から来ており、賁の二爻が上に昇って五爻に来ている。

位に当たっていないが、君位に居て柔順の德と勢いを失っていない。

刑罰を執行するによい。

剛と柔が卦の中を得ており、偏りがない。

《爻辭》

何は荷うである。

陽が最上に居る。

悪徳の限りを尽くしたので許されない。

かせのために耳を傷つけたということからも、今日であることが察せられよう。

初爻と上爻は受刑者であるが、初爻は足、上爻は耳である。

人は自らの過ちを聞けば、改めるものであるが、驕慢が行き過ぎると人に耳を貸さなくなってしまう。

耳を滅するの凶、恐るべし。

〔根本通明の解釋〕

《卦辭》

噬は噛む、嗑は合わせるである。

口の中に物が一つある。

頤は上に動いて物をかむ。

上のあごは動かないものである。

飲食をする卦である。

堅いものが四爻に一つある。

骨である。

また、上と下とを通わせない悪人である。

悪人を取り締まるのが刑獄である。

刑獄を用いるによいというのは、そういうことである。

雷、火は造物者󠄃が天地の間の惡を砕くためにある。

[彖傳]

上は火で下は雷。

火は陰で雷は陽である。

雷は動く。

すると火が起こり、明るくなって、悪人がよく見えるようになる。

五爻は陰爻であり、位に当たっていないが、刑獄にはよい。

なぜなら、陽であったなら強すぎて苛烈な刑罰を下す。

それよりは陰の方が良い。

[象傳]

朱子学者は雷電を電雷にした方が良いという。

上が火で、これが電、下が雷というのである。

しかし其れは良くない。

文字に拘泥して道理に背いている。

この電は雷に発したものであるから、雷電で良いのである。

三四五爻に☵がある。

是を法律とする。

世の中に悪人は絶えないものであるから、刑獄の必要性はなくならないのである。

《爻辭》

何度も何度も罪を犯したものなので、処刑するしかない。

刑罰の時は足と耳に器械をつけるので耳が隠れる。

在任が生きる道がない。

凶。

[象傳]

罪を犯した者には教官が来て、悪事をしてはならないと教え諭す。

この者󠄃は何度も罪を犯しているので、もう教え諭しも耳に入らない。

聡明でない。

7/26 (日) ䷈ 風天小畜(ふうてんしょうちく) 五爻

【運勢】

世の為、人の為に、という献身の心持ちはあるが、内実が伴わない。

落ち着きを持って、些事をこなす事で、良き友を得られるだろう。

常に周囲の立派な人を模範として、徳を養うと良い。

【原文】

《卦辭》

小畜は亨る。密雲雨ふらず。我が西郊よりす。

彖に曰はく、小畜は柔、位を得て、上下之に應ずるを小畜といふ。健にして巽。剛中にして志行はる。乃(すなは)ち亨(とほ)る。密雲雨ふらずとは、往くを尚ぶなり。我、西郊よりすとは、施、行はれざるなり。

象に曰はく、風天上を行くは小畜。君子以て文德を懿(よ)くす。

《爻辭》

九五。孚有り攣如たり。富むに其の鄰を以てす。

象に曰はく、孚有り攣如たりとは、獨り富まざるなり。

【解釋】

〔王弼の解釋〕

《卦辭》

大を養い、健をとどめることが出来ない。

強い志があれば、うまく行く。

四爻が主爻である。

二陰四爻は陰に陰でおり、初爻と応じている。

三爻は乗り越えることが出来ない。

小畜の勢いは密雲を作るに足る。

しかし雨を降らすには至らない。

陽の上の陰が薄く、今初爻の復道󠄃を抑えることが出来ない。

下の方は往くを尊び、上爻だけが三爻の路を固めることが出来る。

もし四爻五爻も上爻のように善畜であったなら、よく雨をふらせる。

旣に設けられているが、行われない状態である。

彖傳は卦全体を言い、象傳は四爻に特化して説明する。

《爻辭》

五爻は尊󠄄位にいて二爻を疑っていない。

二爻が来ても拒まない。

陽で陽に居る。

盛んであり、実がある。専ら固まらない。

〔伊藤東涯の解釋〕

《卦辭》

畜はとどめる、制止の意󠄃である。

一陰が四爻に在り、五爻はこれに従っている。

陽は大であり、陰は小である。

二爻五爻は剛であり、中を得る。

君子が君を得ることを表すので、うまく行くという。

二三四爻に☱澤がある。

岐周󠄃より西で陰陽が交わり雨を降らそうとするが、陽気がまだ盛んであり、まだ降らない。

剛のものが害をなせば柔のものが救う。

陽が陰をとどめることが出来ていない。

文德は礼樂教化をいう。

《爻辭》

五爻は相従う。

鄰とは四爻をさす。

陽が中を得ている。

四つある陽爻を信じて、引き連れあう。

同類が力を合わせ、陽が回復することを望む。

邪は正に勝てないこと久しく、勢いなく人従わない。

友なく、ことは成就しない。

五爻は旣に尊く、友が多い。

誠の心を以て仲間を大切にする。

〔根本通明の解釋〕

《卦辭》

畜は育成するの意󠄃味である。

育ててよいものにしていくことである。

小は陰、大は陽である。

又止めるの意󠄃味がある。

君が悪い方に行くのをとどめ、良い方に導くことである。

小は臣であり、君に対するものである。

君を諫めるのは難しい。

君を徹底して批判するのは正しくない。

至誠を以て諫めるのが良い。

密雲というのは細かな雲が集まって大きくなることを言う。

それは二三四爻の☱澤をさす。

雲は陰である。

陰が集まっているが陽が作用しないと雨は降らない。

上卦の風☴が雲を吹き払ってしまい、雨が降らない。

兌は西である。

東は陽、西は陰である。

西の方に雲ができる。

臣下(陰)が天下をよくしようと志す。

しかし君主(陽)がそれに応じない。

[彖傳]

四爻が主爻である。

これは人に譬えるなら周󠄃公旦であり、その徳を慕って人々が集まってくる。

下卦は☰であるから意志が強い。

意志が強いが謙遜を忘れていない。

下のものが天下をよくしようとどこまでも志すが、君主がそれに応じてくれない。

それでも下のものはどこまでも誠を尽くして君に訴える。

どこまでも諦めないのである。

そして上爻に達すると雨が降る。

君主に至誠が通じたのである。

そして、恩沢があるが、まだその時でない。

[象傳]

風が天の上をふいて雲が散じたり集まったりして、いろいろな模様ができる。

《爻辭》

五爻は四爻と手を取っている。

何事をするにも四爻の力が必要である。

誠が盛んになって、それで富む。

四爻の大臣を用いるようになったからである。

[象傳]

五爻も誠が盛んであるが、四爻の方が盛んである。

君臣ともに誠がある。

7/25 (土) ䷝ 離爲火(りいか) 四爻

【運勢】

明るく振舞う者は、意「欲」的になりがちで、正しさを暫し忘れてしまう。

明るく、そして「誠」意的である者は、どんな時でも使命を全う出来るだろう。

明るくある事よりも、正しくある事を常に優先すれば良い。

【原文】

《卦辭》

離は貞に利(よろ)し。亨(とほ)る。牝牛を畜(やしな)へば吉。

彖に曰はく、離は麗なり。日月は天に麗(つ)き、百穀草木は地に麗き、重明󠄃以て正に麗く。乃(すなは)ち天下を化成す。柔、中正に麗く。故に亨る。是を以て牝牛を畜へば吉なり。

象に曰はく、明󠄃兩たび作るは離。大人以て明󠄃を繼ぎ、四方を照らす。

《爻辭》

九四。突如、其れ來如。焚如。死如。棄如。

象に曰はく、突如。其れ來如とは、容るる所󠄃无きなり。

【解釋】

〔王弼の解釋〕

《卦辭》

離は柔であることが正しい。

だから、必ず正しくして後にうまく行く。

陰爻が卦の真ん中にある。

牝の善いものである。

外は強くて内は柔らかい。

牛の善いものである。

柔順を良しとする。

凶暴な動物を飼ってはならない。

牝牛を飼うのが良い。

それぞれのものが、あるべき場所にあるのが良い。

陰爻が真ん中に在ればうまく行く。

吉。

強暴な動物を飼うべきでない。

《爻辭》

明道が始めて変わるところである。

黄昏になって始めて暁となり、日没になって始めて日の出となる。

だから突如という。

その明るさが始めて進み、炎がはじめて盛んになる。

尊位の五爻に近接し、その位にない。

盛んなところに進もうとする。

その上を炎上させる。

命は必ずしも終わらない。

離の義に違い、応ずるものなく、承けるものもない。

民衆が受け入れない。

〔伊藤東涯の解釋〕

《卦辭》

離は附くということである。

一陰が二陽の間についている。

火であり、日であり、電気であり、德としては明󠄃である。

皆柔順であることを知っている。

明󠄃は正しくあるのに良い。

世の中で明󠄃を用いれば、正を失いがちである。

明󠄃が二つ重なる状態で正を忘れなければ、天下を化成することが可能である。

坤では牝馬の貞によいとあったが、この離では牝牛である。

柔順の徳というより、柔順な人に服するのが良い。

智の至りである。

明󠄃とは日のことである。

前の日が没しても、次の日の出がある。

君子はこれを体現し、前の王の明徳を継いでいくのである。

《爻辭》

四爻は不中正で応じるものがない。

人心は服さないし、必ず災いあり。

凶であることは言うまでもない。

〔根本通明の解釋〕

《卦辭》

離はつくの意󠄃味である。

正しくあればどこまでもよい。

陰が陽爻二つの間についている。

この陰爻は坤からきた。

牝牛は柔順であり、温厚である。

二爻と五爻が牝牛であるから、柔順の徳をやしなうべきである。

[彖傳]

乾の卦の二爻と五爻に陰爻がついたのである。

日月は天について天下をあまねく照らす。

また百穀草木は地に附いて盛んである。

明󠄃の上に明󠄃が重なっているので、重明󠄃という。

それが皆正しい位置についている。

日月が天下を照らすように、君主も今日も明日も正しさを失わずにいれば、あまねく天下を化すことが出来る。

中正なる所󠄃に居るのは二爻である。

牝牛というのは二爻のことである。天子は每日明徳を以て政治をしなければならない。

《爻辭》

四爻は陽なのに陰に居るので良くない。

九四は親に背くものであり、親不孝である。

親を弑すなどということがあるべき道理はないが、それがたまに突然起こることがある。

昔漢󠄃土には火葬がなく、親不孝者に施される刑罰であった。

[象傳]

親不孝から起こった事件は最も重い罪である。

そんなことを犯した者には居場所はない。

今日はこの人につき、明日はあちらにつく。

行いに定まりがない。

不孝と不信は置くべきところがないのである。

7/24 (金) ䷞ 澤山咸(たくざんかん) 四爻


【運勢】

落ち着きを持たなければならないが、周りの状況がそうはさせないだろう。

私心に惑わされ易いので、私心を感じないように生きる事が大切である。

悪い事から極力避けて、直く、正しく生きるのが良い。

【原文】

《卦辭》

咸(かん)は亨(とほ)る。貞に利(よろ)し。女を取る吉なり。

彖に曰はく、咸は感なり。柔上りて剛下る。二氣、感應(かんわう)して以て相與(そうよ)す。止(とどま)りて說󠄁(よろこ)ぶ。男、女に下る。是を以て亨り、貞に利し。女を取りて、吉なり。天地感じて萬物化生す。聖人人心を感ぜしめて、天下和平󠄃。その感ずる所を觀て、天地萬物の情見るべし。

象に曰く、山上に澤有るは咸。君子以て虚にして人に受く。

《爻辭》

九四。貞吉なれば、悔い亡ぶ。憧憧として往來すれば、朋(とも)、爾(なんぢ)の思ひに從ふ。

象に曰はく、「貞吉なれば悔い亡ぶ」とは、未だ感の害あらざるなり。「憧憧として往來す」とは、未だ光大ならざるなり。

【解釋】

〔王弼の解釋〕

《卦辭》

陰陽二気が揃ってはじめて萬物が化生する。

天地万物の樣は感ずるところに現れる。

同類でないものは心を通わせることが難󠄄しい。

陰は陽に応じるものであるが、下でなければならない。

下に在って初めて吉である。

虚心になって人の意見を受け入れれば、物は感応する。

《爻辭》

上卦の初めである四爻にあって、下卦の始めである初爻に応じている。

体でいうと股の上にいる。

二つの卦が始めて交わり、感じる。

そしてその志が通じる。

心が通じ合うのである。

物が感じ始めたときに、正しい方向に行かないのであれば、害を生じる。

だから正しくあることに気をかけなければならない。

そうすることで吉を得る。

害があると感じていない。

今のうちに正しておけば後悔しない。

〔伊藤東涯の解釋〕

《卦辭》

咸は感じることである。

反転すると䷟雷風恒になる。

恒の初爻がこの咸の上爻になったのである。

恒の四爻が下って咸の三爻になったのである。

つまり、柔が昇って剛が下りている。

陰陽二気が通じ合っているのである。

内卦は止まり、外卦は喜ぶ意󠄃である。

☶艮の少男を☱兌の少女に下す。

皆和順している。

物事がうまく行き、正しくしていれば害はない。

人が交わる時は、互いが得るものがないと心が通じ合わない。

妄動して心の通わせあいが正しくないと、良くない。

《爻辭》

憧憧とは往来が絶えないことである。

この爻は感じている。

股の上、背中の下に位置する。

陽でいて陰の位に居る。

初めて心が通じ合ったが、それは正しくなく後悔する。

正しさを失わず、私心なく有れば問題ない。

よく往来して人を訪ねて行けば、同類のものが心を通わせるようになるが、趣向が少し異なる。

ただ心が通じ合るからと言って何も考えないでいると、良い付き合いとならない。

〔根本通明の解釋〕

《卦辭》

是は下経の始まりである。

上経は天地を以て示した所で、下経は人を以て示す所である。

人倫の道は夫婦が始まりであるので、此の卦が下経の始まりなのである。

『序卦伝』では、この卦の始めに宇宙の発生の順番を「天地、萬物、男女、夫婦、父子、君臣、上下、礼儀」としており、夫婦は父子君臣に先立つ。

上卦は沢、下卦は山で、沢の水気が山の上に十分に上った象であり、山の気と沢の気と相交わっている。

兌は少女、艮は小男である。

上は外、下は内であるから、男子が外から妻を迎え入れる所の象である。

男女正しき所を以て相感じるのであり、情欲の私を以て感じるのではいけない。

そこで「咸」の字は下心のつく「感」を使わない。

[彖伝]

咸は無心で咸じる所を尊ぶ。

情欲の私があってはいけない。

天の気が地の気の下に来て、地の気が上に上る所である。

婚姻の礼は皆男子の方から女の方へ下って求める。

天地陰陽相感じることで、萬物が生じるのである。

[象伝]

山上に水気が上っているのが咸の卦である。

山から豊富な水が出てくるのは、山には土が満ちているようで、水気を受け容れるだけの虚なる所がある。

それが為に君子も我を虚しくして、人に教えを受ける所がある。

我が満ちていてはいけない。

《爻辭》

四爻から上卦である。

三爻が又であり、それより上であるから丁度心臓の邊りである。

心は咸にとって非常に重要である。

心が正しく動かない場合は物事はうまく行かない。

心が欲で動くことを戒めるべきである。

四爻は陰の位であるが、陽である。

正しくないところがある。

心が動きやすく、不安定であるから、正しさを守るように心掛けなければならない。

心は欲がないと動かず、欲があると動く。

二爻から四爻までが☴であり、一番欲が生じやすい位置なのである。

初爻と応じていて仲が良い、両者はよく往来する。

この卦は初爻と四爻、二爻と五爻、三爻と上爻、すべてが応じていて往来が激しいのである。

そうすると同類が集まるが、心の悪い者達も集まり不正が起きやすいのである。

[象傳]

予め心を正しくしていて、悪いものを避ければ後悔しないのである。

心が揺れ動いていては心が明󠄃らかでない。

明󠄃らかでなく暗いので欲が生じ迷う。

未だ心が正大に至っていないことを戒めなければならない。

7/23 (木) ䷁ 坤爲地(こんいち) 五爻

【運勢】

無為自然であれば、正しく徳を積む事が出来る。

人間社会での価値観に囚われると、先に進めなくなってしまうだろう。

どこまでも世界の意思に従い、自分に求め、他人に求めない、君子の道は美しい。

【原文】

《卦辭》

坤は元(おほ)いに亨(とほ)る。牝馬の貞に利(よ)ろし。君子往くところ有り。先(さきだ)つときは迷ひ、後るるときは主を得るに利あり。西南には朋を得る。東北には朋を失ふ。安貞にして吉。彖に曰はく、至れるかな坤元。萬物、資(よ)りて生ず。乃ち順にして天を承(う)く。坤、厚くして物を載す。德无疆に合ふ。含弘光大にして品物、咸(ことごと)く亨る。牝馬は地類。地を行くこと疆なし。柔順利貞は君子の行ふところ。先だつときは迷ひて道󠄃を失ひ、後るるときは順にして常を得る。西南には朋を得る。乃はち類と行く。東北には朋を喪ふ。すなはち終に慶有り。安貞の吉は地の无疆に應ず。象に曰はく、地勢は坤。君子以て厚德者物を載す。

《爻辭》

六五。黃裳は元吉なり。

象に曰はく、「黃裳元吉」とは、文、中に在るなり。

【解釋】

〔王弼の解釋〕

《卦辭》

坤は貞によろしい。

牝馬によい。

馬下にあって行く。

牝馬は柔順の至りである。

柔順を尽くして後にうまく行く。

牝馬の正しいものによろしい。

西南は人を養う地である。

坤の方角である。

だから友を得る。

東北は西南の逆である。

友を失う。

乾は龍を以て天を御し、坤は馬を以て地を行く。

地は形の名である。

坤は地を用いるものである。

両雄は並び立たない。

二人主が居るのは危うい。

剛健と對をなす。

長く領土を保つことが出来ない。

順を致していない、地勢が順わない。

その勢は順。

《爻辭》

黄色は中の色である。

裳は下を飾る。

坤は臣の道󠄃。

下を飾り、剛健さが無い。

そして物の情勢を極める。

理を通す。

柔順にして尊󠄄位にいる。

武を用いるのは良くない。

陰が盛んで、陽に変わられることも予想できない、文人が中を得る。

美の極みである。

大吉。

〔伊藤東涯の解釋〕

《卦辭》

坤の爻はすべて陰。

順の至りである。

牝馬は柔であり強く行く。

この卦は柔にして健である。

主に遇うとは、陽に遇うことである。

西南は陰、東北は陽。

順の至りでうまく行く。

君子まず行くところがあれば迷い、後に主を得る。

西南に行くと友を得て、東北に行くとその友は離れる。

正しいことだけをしていれば吉。

天の気を承け萬物を生ず。

陽に先んじてはならず、陽の後に行けばよい。

《爻辭》

黃は中の色である。

上を衣と言い下を裳という。

この爻は柔順中正で最尊󠄄位に居る。

自ら其の裳を着る。

元吉である。

君子の徳は人に承認されることを求めない。

盛徳の至りである。

坤は地の道󠄃である。

だから五爻だからと言って君主ではない。

ただ君子の道󠄃を言う。

〔根本通明の解釋〕

《卦辭》

坤は乾と對であり、乾は天、坤は地である。

牝馬の話が出るが、これは乾の方が牡馬であることをも示している。

臣たるもの、必ず朝󠄃廷に行って君に仕えなければならない。

しかし、無学では全く役に立たないから、そのためには朋(とも)をもって助け合わなければならない。

西南は坤である。

☴巽の卦、☲離の卦、☷坤の卦、澤兌の卦は陰の卦である。

そこで、西南に陰の友が集まっている。

朋は友と違う。

一緒に勉強するもののことを朋というのである。

友とは朋の中でも特に親しいものである。

朋の字は陰で、友の字は陽である。

始めのうちは陰の友達が必要である。

そこで西南が良いのである。

また、東北は朝󠄃廷を意味する。

乾の気で萬物は始まり、坤の気で萬物に形が備わる。

坤の卦は地の上に地を重ねているから、地盤は盤石である。

天の気がどこまでも拡大していくのに、陰の気はどこまでも従うのである。

牝馬が牡馬に従うように、臣下は君主に仕えるのである。

先に行こうとしてはいけない。

常に後ろについていくべきである。

臣下は朋友を失うことになるが、君主に仕えることでそれを克服するだけの喜びを得る。

慶(ケイ、よろこ)びは高級な臣下の卿(ケイ)に通じる字である。

上に鹿の字が附くが、昔は鹿の皮を以て喜びを述べた。

人々が集まってくるのである。

[大象傳]

地が二つも重なっているので盤石である。

物を載せても耐えられる。

つまり様々なことを任されても耐えられる存在なのである。

《爻辭》

鄭玄(じょうげん)の説に従うと、舜が堯に試されて政治をし、周󠄃公が成王が幼少だったので政をしたことを表すという。

坤は臣たるべきものであり、五爻の君主の座にいるはずがない。

それなのに鄭玄は臣下が君子を代行したという。正しいことではない。

鄭玄は『書経』の注釈で周󠄃公旦が王位についたかのような書き方をしているほどである。

この坤は陰であるから、皇后を表すとするのが正しい。

腰より下に着るものを裳といい、腰より上に着るものを衣という。

衣裳の衣が天子、裳が皇后である。

黄色は五行の土の色である。

乾爲天の五爻の王の配偶の皇后である。

だから元吉である。

7/22 (水) ䷿ 火水未濟(かすいびせい) 上爻

【運勢】

何事にも恐れず、意欲的であるから、思った通りに物事が進むだろう。

素直な心を持ち続けているのでとても良い。

しかし、今の心持ちを忘れてしまうと、大きく転ずるので、注意しなければならない。

【原文】

《卦辭》

未濟は亨(とほ)る。小狐、汔(ほとん)ど濟(わた)る。其の尾を濡らす。利(よろ)しき攸(ところ)无(な)し。

彖に曰はく、「未濟は亨る」とは、柔、中を得るなり。「小狐、汔(ほとん)ど濟(わた)る」とは、未だ中に出でざるなり。「其の尾濡らす利しき攸无し」とは、續いで終らざるなり。位に當たらざると雖も、剛柔應ずるなり。

象に曰はく、火、水上に在るは未濟。君子以て愼みて物を辨(わきま)へて方に居る。

《爻辭》

上九。飲酒に孚(まこと)あれば、咎(とが)なし。其の首を濡らせば孚有れども是を失ふ。

象に曰はく、「酒を飲みて首を濡らす」とは、亦節󠄄を知らざるなり。

【解釋】

〔王弼の解釋〕

《卦辭》

柔が中にあり、剛に違わない。

よく剛健を納めるので、うまく行く。

小狐が大きな川を渡ることができない。

あと少しの所󠄃で実現できない。

剛健が難を抜き、その後に可能になる。

ほとんどわたれるが、危険を脱することができない。

小狐渡れるだろうが、余力がない。

もう少しで渡れるのであるが、力尽きる。

終わりまで続けられない。

今も険難の時である。

未濟はまだ険難の時が終わらないの意󠄃味である。

位に当たらないので未濟である。

剛柔が応ずれば済む。

《爻辭》

未濟の極みである。

既濟の逆である。

任ずるところは当たる。

任せるところが当たると、信じられる。

疑いなくして喜ぶ。

だから飲酒にまことがあり、咎められないという。

よく物を信じられるので、喜びを得る。

事が廃れるのを恐れないが、楽しみに耽ることが甚だしく、節󠄄を失するまでに至る。

〔伊藤東涯の解釋〕

《卦辭》

未濟は事が成就しないことである。

火が上に在り、水が下に在る。

上下交わらない。

互いに用いないので未濟という。

五爻は柔で中にいる。

ことはよく通󠄃るが、初爻は陰で一番下にいて中に到らない。

狐は陰の存在であり、積極的にやろうとすると失敗に終わる。

始めはうまく行く。

そして、下に止まっていればよいのである。

いたずらに難局を打開しようとすれば失敗する。

君子は外は時勢を見て、内は己の才をはかる。

上が陽で下が陰である。

互いに妨害しない。

《爻辭》

上爻は剛明󠄃の才を以て最上の位に居る。

不安が無いわけではないが、天命に任せているので楽しみがあり、不安を忘れる。

ただし、楽しみに耽るのが度を越せば、其の首を濡らすに至るという。

注意しなければならない。

〔根本通明の解釋〕

《卦辭》

下は水上は火である。

水は低きにあり火は上に昇るもので、居るべき場所にいるが、互いに和することが無い。

互いが作用しないので、萬物が創造されない。

しかし、両者あるべき場所に在る。

しかし、いずれは互いに動き出し、交わり始めるのである。

だから最終的には亨るのである。

☵坎は狐である。

この卦の場合、小さな狐である。

それが川を渡ろうとするが、終にはしっぽを濡らしてしまう。

狐は川を渡る時にしっぽを濡らさないようにあげている。

疲れてくるとしっぽが下がり、水につかって驚いて引き返してしまう。

忍耐力が無いのである。

忍耐力が無いと何事をしてもうまく行かない。

気力が無いと何事も達成できないのである。

[彖傳]

柔が中を得ている。

五爻のことである。これが主爻である。

また初爻に關しては、あと少しのところまでやって、忍耐力なく引き下がる。

この卦全体でみると、ことごとく全て位を外している。

陰は陽に居て、陽は陰に居る。

しかし、隣同士陰陽で相性が良く、うまく行っている。

また、初爻と四爻、二爻と五爻、三爻と上爻、それぞれ応じている。

最終的にはうまくいくのである。

[象傳]

火は南に居り、水は北に居る。

自分の居場所をはっきりとしていて、混じるところが無い。

何事もはっきりと分ける象である。

☲離はものを明󠄃らかにする。

それぞれが自分のいる場所にいることを示している。

《爻辭》

上爻は戦も終わって君臣相和らいで宴会を開いている。

宴会の時も君臣、よく身分を弁えていれば間違いがない。

安楽に耽って、だんだん増長するようではいけない。

[象傳]

飲酒が行き過ぎて節度が無くなる。

宴会もほどほどでやめなければならない。

折角太平になっても、節度を忘れて安楽に耽ってばかりいると、また乱世になってしまう。