9/16 (水) ䷻ 水澤節󠄄(すいたくせつ) 変爻無し

【運勢】

時代の節目は、世の中が不安定になり易い。

不安定な時は、正しい事でも、自分の意見を押し通そうとしてはいけない。

節度を弁える事が、不安定な世の中の安定に繋がるのである。

【結果】 ䷻
水澤節󠄄(すいたくせつ) 変爻無し

《卦辭》
[上爻 少陰][五爻 少陽][四爻 少陰]
[三爻 少陰][二爻 少陽][初爻 少陽]

《爻辭》
[変爻無し]

【原文】
《卦辭》
節󠄄は亨(とほ)る。苦節貞(てい)すべからず。

彖(たん)に曰はく、節󠄄は亨(とほ)る。剛柔(ごうじゅう)分かれて、剛中を得る。「苦節は貞すべからず」とは、その道窮(きは)まるなり。よろこびて以て險(けん)を行き、位にあたりて以て節󠄄(せつ)す。中正にして以て通ず。天地節󠄄して四時成り、節󠄄して以て度を制すれば財を傷(そこな)はず、民を害せず。

象に曰はく、澤上に水あるは節󠄄。君子以て數度(すうど)を制し、德行を議(ぎ)す。

【解釋】
〔王弼の解釋〕
《卦辞》
坎は陽で兌は陰である。

陽が上で陰が下である。

剛柔が分かれている。

剛柔が分かれて乱れない。

剛が中を得て制となる。

主節󠄄の義である。

節󠄄で最大は剛柔が分かれている時である。

節󠄄で苦を過ぎれば堪えられない。

それでは正に復せない。

喜んで險を冒さず、中を過ぎて節󠄄となれば道󠄃が窮まる。

〔伊藤東涯の解釋〕
《卦辞》
節󠄄は分かれて度がある。

竹の節のことである。

陰陽が均等である。

二爻と五爻が剛中である。

節󠄄があれば通り、及ばないという弊害がない。

上爻は陰柔で正を得て窮まれば、節󠄄を過ぎて窮まる。

君子の道は中に適うを貴しとする。

人は剛で折れず、柔で撓まなければよろしい。

又偏ることがない。

うまく行く。

及ばないことを恐れるのでなく、行き過ぎることに注意すべきである。

〔根本通明の解釋〕
《卦辞》
節は竹の節に由来する。

中が空洞で通っているが、所々に節があり止まって堅く動かない。

上卦は坎で水が流れて通じるが、下卦は兌で水が止まり、節の象がある。

総ての事は竹の節の様に分限がある。

天地の間にも、君と臣の間にも、一家の中にも各々身分に応じて為す所がある。

しかし己の分を守るということも、度を越せば苦節となる。

孟子に陳仲子という人物がおり、節義を守ることを徹底する余り、無道の君から受ける禄を穢れると言って嫌悪する。

しかしそれでは生きていくことは出来ない。

我が身を苦しめ無理をしてまで節を守ろうとしてはいけない。

[彖伝]
下卦が陰=柔で、上卦が陽=剛である。

上卦の主爻は五爻目で、下卦の主爻は三爻目である。

剛と柔が上下に分かれ、陽爻は皆中を得ている。

「苦節不可貞」は行う所の道が窮して行えなくなることである。

陳仲子の様に窮することになる。

[象伝]
沢の上に水が流れる。

沢は四方に堤防があって水を溜めている。

これが節である。

程好い所に止まっている。

君子は節に則って政を行う。

9/15 (火) ䷳ 艮爲山(ごんいさん) 変爻無し

【運勢】

物事を進める過程において、一度止まる必要があるが、進む気持ちを忘れてはいけない。

先ずは、自分一人で出来る事を行い、正しく生きる事を心掛けると良い。

何事も、堂々とした態度が大切である。

【結果】 ䷳

艮爲山(ごんいさん) 変爻無し

《卦辭》

[上爻 少陽][五爻 少陰][四爻 少陰]

[三爻 少陽][二爻 少陰][初爻 少陰]

《爻辭》

[変爻無し]

【原文】

《卦辭》

その背に艮(とどま)り、その身を獲(え)ず。その庭に行きてその人を見ず。咎めなし。

彖に曰はく、艮は止まるなり。時止まるときは則ち止まり、時行くときは、則ち行く。動靜(どうせい)その時を失はず。その道光明なり。その止まるに艮(とどま)るはその所に止まるなり。上下敵應(てきわう)して相ひ與(くみ)せず。ここを以て、その身を獲ず。その庭に行きてその人を見ず。咎めなきなり。

象に曰はく、兼󠄄ねたる山は艮。君子以て思ふことその位を出ず。

【原文解釋】

〔王弼と東涯の解釋〕

《卦辭》

艮はとどまる意󠄃である。

山である。

山が二つ重なるので兼山ともいう。

應爻が一つもなく、互いに反発して人の顔をみようとしないので、背中しか見ないのである。

どこかに向おうとすることなく、その地位にとどまるだけである。

〔根本通明の解釋〕

《卦辭》

『説卦伝』にあるように、艮は止まるのが宜しい。

しかし止まると云っても、進むべき時に止まっては弊害が生じるので、注意しなければならない。

艮は人の身体でいえば背中に相当する。

動くものは前にあり、背中は動かないからである。

また欲は前の方から起こり、背中には欲が生じない。

かつ世の中は欲の世界だが、背を向けていれば無欲でいられる。

無欲であれば、我が身は無いのと同じである。

我が身が無ければ、世間から訪ねて来る人もいない。

荘子も「斉物論」で同様のことを言っている。

人と交わらずに一人道を楽しんで居れば、何所からも咎を受けることはないのである。

[彖伝]

艮は止まるとある。

三爻目、四爻目、五爻目に震の卦があるが、これは進み行くことを意味する。

止まる方にばかり偏ってはいけない。

また艮の卦には時の象があるが、これは止まるべき所に於いて止まるという意味である。

動と静の双方を含んでいることになる。

つまり自身に相応(ふさわ)しい所で止まり、行けば良い時になれば動いていくのである。

初爻目と四爻目は陰爻同士、また二爻目と五爻目も陰爻同士、そして三爻目と上爻も陽爻同士であるから、いずれも相応じず親しまない。

よって「其ノ身ヲ獲」ない。

我が身に欲が無く、世間に望みを持たず、室から庭に出て行っても訪問者も見えず、従って咎を受けることもないのである。

[象伝]

「兼山ハ艮」とある。

山が二つ重なっており、対立しているから、互いに動いて交わることがない。

君子は自分の居所から外へ出ず、我が身を守っているので、外への考えが及ばないのである。

9/14 (月) ䷩ 風雷益(ふうらいえき) 五爻

【運勢】

誠意が有れば、周りから信頼を得られるので、協力して成果を上げる事が出来る。

大事を行うのにとても良い時である。

中正を守る為には、相手の心情も踏まえて行動する事が大切である。

【結果】 ䷩◎五

風雷益(ふうらいえき) 五爻

《卦辭》

[上爻 少陽][五爻 老陽][四爻 少陰]

[三爻 少陰][二爻 少陰][初爻 少陽]

《爻辭》

[五爻]

【原文】

《卦辭》

益(えき)は、往く攸(ところ)有るによろし。大川を涉るに利し。

彖に曰く、益は上を損して下を益す。民說󠄁(よろこ)ぶこと疆(かぎ)りなし、上より下に下る。其道󠄃大に光なり。

往く攸(ところ)有るに利(よ)しとは、中正(ちうせい)にして慶(けい)有り。大川を涉るに利しとは、木道(もくどう)乃ち行く。益は動いてしかして巽(したが)ふ、日に進むこと疆(かぎ)りなし。天施し地生(しょう)ず。其益方(かた)なし。凡そ益の道󠄃は、時と偕(とも)に行ふ。

象に曰く、風雷は益。君子以て善を見れば則ち遷(うつ)り、過(あやまち)有れば則ち改む。

《爻辭》

九五。孚有りて惠心。問ふこと勿くして元吉。孚有りて我が德を惠とす。

象に曰はく、孚有りて惠心とは、之を問ふこと勿(な)し。我が德を惠とすとは、大いに志を得るなり。

【解釋】

〔王弼と東涯の解釋〕

《卦辞》

益は増すこと、増やすことである。

䷋否の上卦の四爻が陽から陰となり、下爻の初爻が陰から陽になっているので、上が損をして下が得をした象である。

上の者が損をして、下の者󠄃を助けることはとても良いことで、また二爻が陰、五爻が陽で、中正であるので、大事業をするのに好機である。

上の者が動けば(震)、下の者が従う(巽)象である。

《爻辞》

[王弼の爻辞]

位を得て尊󠄄位にある。

益の主爻である。

益の大で、信より大なるものはない。

惠の大で、心より大なるものはない。

民の利する所󠄃によって、これを利す。

恵んで費やさない。

惠の心である。

信は惠の心を以てする。

願いを尽くす。

だから問う前に元吉。

誠があって我が德を恵む。

誠を以て恵む。

そしてこれに応じる。

[伊藤東涯の爻辞]

惠の心は仁恵の心である。

この爻は益があって、陽剛中正である。

尊󠄄位にある。

下の二爻の賢者が応じ、明君が賢臣をえる。

民を利する。

誠の心があり、愛を下に恵む。

至善大吉である。

問うまでもない。

下もまた誠の心があって上に感じる。

その德を以て、恩恵とする。

徳で仁を行うものが王であり、力を以て仁を借りるのが覇である。

仁政を民に及ぼす。

もし至誠の心があれば、天下を益せば、天下の人敬服する。

親は父母を超え、尊󠄄神明を超える。

その心が固まり解けない。

いたずらにそのことがあり、内に誠が無ければ、暫くは服従しても、実は離れる。

五爻にはまことの惠があり、物に及ぼす。

君臣が出合い、天下を益す。

大変な吉である。

〔根本通明の解釋〕

《卦辞》

この卦は、前の卦の山沢損と反対である。

山沢損は地天泰より来た。

そして地天泰は天地否から来た。

天地否は、上卦は乾、下卦は坤である。

坤は空しさの象で、人民の困窮する卦である。

そこで九四の陽爻が下りて、初六の陰爻が上る。

これで風雷益の卦になる。

これが下を益するという義である。

上卦の震は、農業の卦である。

人民を富ますのは農業であり、これは何処までも推奨される。

それで「利有攸往」である。

こうして人民が富んでいれば、如何なる大難が起こっても踏み越えて往く所となる。

よって「利渉大川」である。

[彖伝]

「損上益下」とは、天地否の九四の陽爻を一つ損(へ)らして、代わりに初六の陰爻を益すことである。

そこで民が説(よろこ)ぶ。

陽が段々進んで往けば兌の卦になる。

農事が盛んになればなるほど、人民は利益を得る。天の気が地の底に下って万物が生じる。

出で来たものは大きくなって花が咲き草木に光を生じる。

よって「其道光大」となる。

「中正にして慶(よろこ)び有り」とは、中正(二爻が陰、五爻が陽で、爻が定位通りであること)の五爻目の天子に、同じく中正の二爻目が応じることである。

いわば名君と忠臣が相助けて人民を生育する所に、慶びが出で来る。

「木道乃行」とは、震と巽に対応する五行が双方とも木であり、万物が盛んになることである。

[象伝]

上卦が巽=風で、下卦は震=雷である。雷が起こると、風はこれを助ける。

また巽は外卦であり、修飾して能(よ)く齊(ととの)えるという所がある。

つまり外の人が行いを修めて行く所を見れば、周囲の者も自ずから其の方へ従って遷って往く。

そして過ちがあれば速やかに改める。

震には過ぎるという象があり、もし往き過ぎれば、物を害してしまう。

雷山小過は霆(激しい雷)である。

雷は下から上に昇るが、霆は上から打ってくる。

これは往き過ぎである。

善い事も過ぎると害を為すから、これを改めなければいけない。

《爻辞》

九五の天子は、底からの孚があって、民を恵む志が真に厚い。

これを占いで問うには及ばない。

天子は我が徳を以て普く人民を恵む。

[象伝]

天子は我が徳を以て普く民を恵めば、大いに志を得る事が出来る。

9/13 (日) ䷻ 水澤節󠄄(すいたくせつ) 五爻初爻

【運勢】

こだわりを持ち過ぎると、周囲の環境に気が立ってしまい、良くない。

難しく考えず、世の中の流れに従って過ごす事が大切である。

そうする事で、不安定な世の中を穏やかに過ごす事が出来るだろう。

【結果】 ䷻◎五⚪︎初
水澤節󠄄(すいたくせつ) 五爻初爻

《卦辭》
[上爻 少陰][五爻 老陽][四爻 少陰]
[三爻 少陰][二爻 少陽][初爻 老陽]

《爻辭》
[五爻 優先][初爻]

【原文】
《卦辭》
節󠄄は亨(とほ)る。苦節貞(てい)すべからず。

彖(たん)に曰はく、節󠄄は亨(とほ)る。剛柔(ごうじゅう)分かれて、剛中を得る。「苦節は貞すべからず」とは、その道窮(きは)まるなり。よろこびて以て險(けん)を行き、位にあたりて以て節󠄄(せつ)す。中正にして以て通ず。天地節󠄄して四時成り、節󠄄して以て度を制すれば財を傷(そこな)はず、民を害せず。

象に曰はく、澤上に水あるは節󠄄。君子以て數度(すうど)を制し、德行を議(ぎ)す。

《爻辭》
[五爻 優先]
九五。甘節󠄄す。吉。往けば尚(くは)ふること有り。

象に曰はく、甘節󠄄の吉は、位に居て中するなり。

[初爻]
初九。戶庭を出でず。咎无し。

象に曰はく、戶庭を出でずとは、通塞を知るなり。

【解釋】
〔王弼と東涯の解釋〕
《卦辞》
節󠄄とはほどほどであることである。

この卦は陰陽の數が等しく調和がとれている。

また節目である。

物事には節目を設けて区切る必要がある。

自然界には四季があり、物には度量衡が設けられている。

陰陽が均等にあり、上卦下卦ともに陽が中をえている。

よろこび☱を以て難󠄄☵に当たるとうまく行く。

《爻辞》
[王弼と東涯の五爻 優先]
五爻は剛健中正であり、ほどほどの節度があり、苦痛でない。

このまま行動していけば、良い結果が得られるだろう。

[王弼の初爻]
節󠄄の初めであり、離散したものを整えて、制度を立てるものである。

故に通則を明らかにし、険偽を熟慮する。戶の外の庭に出ず、謹慎を續ける。

その後には事は整ってきて問題が無くなる。

[伊藤東涯の初爻]
内卦を戶といい、外卦を門という。

戸外の庭は中門の内側にある。

だから庭を戶庭という。

初爻は陽で一番下に居る。

上に正応があり、無暗に上に進む事は無い。

達成できることが無くても、行き過ぎることもない。

己の才能が外に出て達成できることがあっても、時勢が合わなければ、自分の場所󠄃をくらまし、時を待って行動すべきである。

せっかちに先を急いでは禍にあってはいけない。

伊尹が畎畝の中に居て、堯舜の道を楽しみ、終身したようなものである。

君子の道である。

〔根本通明の解釋〕
《卦辞》
節は竹の節に由来する。

中が空洞で通っているが、所々に節があり止まって堅く動かない。

上卦は坎で水が流れて通じるが、下卦は兌で水が止まり、節の象がある。

総ての事は竹の節の様に分限がある。

天地の間にも、君と臣の間にも、一家の中にも各々身分に応じて為す所がある。

しかし己の分を守るということも、度を越せば苦節となる。

孟子に陳仲子という人物がおり、節義を守ることを徹底する余り、無道の君から受ける禄を穢れると言って嫌悪する。

しかしそれでは生きていくことは出来ない。

我が身を苦しめ無理をしてまで節を守ろうとしてはいけない。

[彖伝]
下卦が陰=柔で、上卦が陽=剛である。

上卦の主爻は五爻目で、下卦の主爻は三爻目である。

剛と柔が上下に分かれ、陽爻は皆中を得ている。

「苦節不可貞」は行う所の道が窮して行えなくなることである。

陳仲子の様に窮することになる。

[象伝]
沢の上に水が流れる。

沢は四方に堤防があって水を溜めている。

これが節である。

程好い所に止まっている。

君子は節に則って政を行う。

《爻辞》
[五爻 優先]
九五の天子は明君である。

節は十分に倹約して、程好き所を苦しまずに甘んじ楽しんで行う。

後世で言うなら漢の文帝である。

文帝は物見櫓を作るのに大工に見積もらせた所、百金掛かると言われ、人民の負担を考えて作るのをやめた。

また女の服は一尺も二尺も裾を下へ曳くものであるが、下を曳くだけの物は無用であるといって皇后の召物迄も短くした。

宮中の女は皇后に習い、皆男の着物のように短くした。

文帝は倹約を第一とし、それを甘んじて楽しんだ。

[象伝]
甘節の吉は天子の位に居って如何にも中庸の所を行うのである。

《爻辞》
[初爻]
約象(三四五爻)は艮で、互體(二三四爻)は震である。

震の卦徳は動であるが、上には山があり、また下には沢があるから、出ようとして止める。

其所で家の戸口、庭の門から外へ出ない。

初九は陽爻を以て、陽位にあるから動かないのが正しい。

[象伝]
道徳の通る時と塞がって行われない時がある。

今は道徳の行われない時であるから、外へ出ずに道を楽しんで居る方が宜しい。

世間へ出ない為に咎を受け様が無い。

9/12 (土) ䷎ 地山謙(ちさんけん) 三爻初爻

【運勢】

常に控えめな態度で有れば、周りと不和が起こる事は無い。

自分を良く見て貰おうという欲を抑える事で、信頼を得られるだろう。

周りの意見に惑わされず、何事も責任を持ち、貫き続ける事が大切である。

【結果】 ䷗◎三⚪︎初

地山謙(ちさんけん) 三爻初爻

《卦辭》

[上爻 少陰][五爻 少陰][四爻 少陰]

[三爻 老陰][二爻 少陰][初爻 老陽]

《爻辭》

[三爻 優先][初爻]

【原文】

《卦辭》

謙は亨(とほ)る。君子は終はり有り。

彖に曰はく、謙はとほる。天道下濟して光明。地道卑(ひく)くして上行す。天道は盈(えい)を虧(か)きて、謙に益す。地道󠄃は盈を變じて謙に流る。鬼神は盈を害して謙に福す。人道は盈を惡(にく)みて謙を好む。謙は尊くして光り、卑(ひく)くして踰ゆべからず。君子の終はりなり。

《爻辭》

[三爻 優先]

九三。勞謙す。君子、終有りて吉。

象に曰はく、勞謙す。君子とは、萬民服するなり。

[初爻]

初六。謙謙す。君子大川を渉るに用ふれば吉。

象に曰はく、謙謙す。君子とは卑しうして以て自ら牧(やしな)ふなり。

【解釋】

〔王弼と東涯の解釋〕

《卦辞》

謙は謙譲や謙遜の意󠄃味である。

平面な地卦の下に高いはずの山卦がある様が謙遜を表す。

謙譲の徳を持っている者は、どんなところでも歓迎されるし、尊敬される。

しかし、謙譲の美徳は昇進するにつれて失いがちである。

謙譲の美徳を持ち続けて、人の上に立つことは難しい。

君子とは最後まで謙譲の美徳を全うすることができる人のことである。

これを有終の美という。

謙譲の美徳を有する者が上にいると、下の者を大切にするので、下の者は自分の実力を活かすことができる。

また、謙譲の美徳を有する者が下にいると、周りの人がその徳を慕って昇進を求める。

〔王弼の爻辭〕

[三爻 優先]

三爻は下卦の極みにある。

進んでその位を得た。

上下陽がないから、その民を上下に分ける。

澤山の陰が三爻を宗源とする。

尊さでこれに勝るものはない。

謙の世に在っては尊󠄄に安んずることが出来ない。

上は下を承けて安らかになる。

ひたすら謙に努めることは怠りではない。

だから吉である。

[初爻]

謙の最下位に居て、謙の中の謙である。

よく謙を体する謙である。

それは君子のみである。

大難を渡るに用いる。

害はない。

牧は養うである。

〔伊藤東涯の爻辭〕

[三爻 優先]

勞謙とは労あって謙であることである。

三爻は謙の時にあって、剛であり下卦の最上に居る。

上下にある五つの陰が三爻を宗とする。

三爻は上下の陰に勲功があって謙譲の美徳を有する。

小人がこの爻に居たら功を誇って自ら腐敗していく。

君子だけがよく最後まで謙譲を守り吉である。

これは卦の主爻である。

世の中、人に誇る功労がない人でも人の上に行きたがるが、天下国家に大勲功があったのに謙譲の態度を崩さないで下に留まる。

だから萬民が宗源とするのである。

克己して礼に復す。天下は仁に帰す。

[初爻]

謙謙は謙にして謙である、乾乾というのと同じである。

初爻は謙にあって柔で下に居る。

謙にして謙の象がある。

君子が険難を渡れば吉を得る。

険難の時にあり、人は剛壮を以てやればよいと思うが、時運が災いしていることを知らない。

また力を以て避けるべきでもない。

必ず謙遜すべきで、そして自らを養い大難に当たれば成功する。

柔庸の才を以て、厄に居て謙であるべきである。

〔根本通明の解釋〕

《卦辞》

謙は「へりくだる」と言われるが、本当は「小さい」という意味である。

我が身が小さくなって人の下に降って居る。

古くは言偏の無い「兼」の字であった。

小さいために一つで足らず合わせるという義である。

他に口偏を附けた「嗛」の字もあり、子夏伝はそう書いている。

口の中に入るだけの小さな物を含んでおり、嗛嗛之食という言葉は僅かの食物のことである。

小さいというのが本来の義である。

卦の象では地の下に山があり、人民の下に我が身を引き下げて小さくなって居る。

二・三・四爻目に坎がある。

水には功労があるが、低い所に居るので、謙遜の義がある。

これなら何処へ行っても尊ばれ亨ることになる。

しかし真実の謙虚さでなく、人望を得るために拵えて行うのは長く亨らない。

[彖伝]

天道下済とあるのは、上に在る天の陽気が降って来て地の徳を成すことである。

元は乾の一番上にあった陽爻が下に降って九三となったのである。

光明は三爻目に降りて来た陽爻である。

また元は三爻目にあった陰爻が一番上に上がったから上行という。

元の乾の卦が陽爻ばかりで剛に過ぎるので盈(えい)に虧(か)く。

上に居るべき人が小さく為って、人の下に降るのが謙である。

我が身を下しても人が侮って其の上を踰(こ)えて往くことは出来ない。

卑い所に居れば居るほど人が尊んでくる。

そうして君子は終を遂げる所となる。

[象伝]

上卦が地で下卦が山である。

地の広い方から見れば山が小さい。

天地の道理は何でも盈ちる所があり、それを虧かなければいけない。

そこで多い方から取って、少ない方へ益す。

政でも米を多い所から寡(すく)ない所に益すようにする。

政は物の多少を量り、平らかにしなければいけない。

《爻辞》

[三爻 優先]

九三は賢人で天下の為に功労があっても深く謙遜する。

君子は孚の大業を遂げても、初めの頃と変わることなく能く謙遜する。

終りと云うのは艮の卦が終わる象である。

[象伝]

天下第一の功労道徳があっても、深く我が身を下して謙遜をして居り、その徳は普く天下に通じる。

[初爻]

初六は謙の卦の一番下で、山で言えば一番麓の方である。

其所で君子は、謙遜の上に謙遜を重ねる。

そうして謙遜の徳を育てて往けば、危険な大川を渉る時でも、助けてくれる者が多く、必ず吉である。

[象伝]

謙の上に謙を重ねる君子は、人よりも我が身を低くして、其れで自分の徳を育う。

9/11 (金) ䷬ 澤地萃(たくちすい) 変爻無し


【運勢】

常に誠意を持って行動し、正しい道を歩むと良い。

そうする事で、志を同じくする仲間を得られ、何事を行うにも良い状態になる。

この機会は、望んでも得られない運命的なものなので、大切にすべきである。

【結果】 ䷬

澤地萃(たくちすい) 変爻無し

《卦辭》

[上爻 少陰][五爻 少陽][四爻 少陽]

[三爻 少陰][二爻 少陰][初爻 少陰]

《爻辭》

[変爻無し]

【原文】

《卦辭》

萃(すい)は亨(とほ)る。王は有廟(ゆうびょう)に假(か)る。大人(だいじん)を見るに利(よろ)し。亨る。貞に利し。大牲(だいせい)を用ふれば吉。往く攸(ところ)有るによろし。

彖に曰く、萃は聚(じゅ)なり。順にして以て說󠄁(よろこ)ぶ。剛中にして應ず。故に聚(あつむ)るなり。「王有廟に假る」とは、孝享を致すなり。「大人を見るによろし。亨る。」とは、聚むるに正を以てするなり。「大牲を用ゐて吉。往く攸(ところ)有るによろし」とは、天命に順ふなり。其の聚むる所を觀て、天地萬物の情見るべし。

象に曰はく、澤、地に上るは萃。君子以て戎器を除き、不虞を戒める。

【解釋】

〔王弼と東涯の解釋〕

《卦辭》

萃は集まることである。

物事がうまく行く、王は宗廟に至り、人々は集まる。

その中には偉大な人もういるので、賢人に遇う機会を得られる。

假は至の意󠄃で『春秋左氏傳』でもそのように使われている。

「六月󠄃丁亥、公大廟に假(いた)る」三つの陰が下に集まり、上は五爻に従う。

内卦は柔順であり、外卦は喜びであるから、君臣が通じ合っている。

祭祀は大切にすべきである。

古代の王は宗廟を祭り、祭祀を嚴修することで民の心をつないでいた。

〔根本通明の解釋〕

《卦辭》

萃の下に亨の字があるのは間違いである。

萃とは草がたくさん集まって茂っている様を言う。

地の上に沢があるので草木が密集して茂るのである。

王が宗廟を祭る時は全国から人々が集まり、特産品が集まってくるのである。

そして、豚羊牛で祭るのが良い。

そうすれば、人々の心は一つになり、何事を行うにも良い状況となる。

[彖傳]

萃は集まるの意󠄃味で、内卦は順、外卦は喜ぶ。

天下の人が天子の徳を慕って集まってくるので、天子は天下の様々なものを以て宗廟を祭る。

天命にしたがうというのは、☴巽の卦が内包されてゐるからで、天命とは風と關係があるのである。

天子の恩沢に人々は集まるのである。

[象傳]

人々が集まってきたなら、思わぬ争いごとが起こるかもしれない。

そこで油断はできず、兵器の手入れを怠ってはならぬということである。

9/10 (木) ䷋ 天地否(てんちひ) 四爻

【運勢】

悪人により、世の中が大いに乱れる。

この様な時は、周りに流されず、何事も慎ましくいる事が大切である。

自分の立ち位置を振り返り、中正を心掛ける事で、災いを避ける事が出来るだろう。

【結果】 ䷋◎四
天地否(てんちひ) 四爻

《卦辭》
[上爻 少陽][五爻 少陽][四爻 老陽]
[三爻 少陰][二爻 少陰][初爻 少陰]

《爻辭》
[四爻]

【原文】
《卦辭》
否は之(こ)れ人に匪ず。君子の貞によろしからず。大は往き、小は來る。

彖に曰はく、「否は之れ人に匪ず。大は往き小は來る」とは、則ち是れ天地交はらずして、萬物通ぜざるなり。上下交はらずして天下邦无(な)きなり。内、陰にして外、陽。内、柔にして外剛。内小人にして外君子なり。小人は道󠄃長じ、君子は道󠄃消ゆるなり。

象に曰はく、天地交はらざるは否。君子以て德を儉し難を避け、榮するに禄を以てすべからず。

《爻辭》
九四。命有り。咎无し。疇祉に離ふ。

象に曰はく、命有り咎无しとは、志行はるるなり。

【解釋】
〔王弼の解釋〕
《卦辞》
無し

《爻辞》
凡そ否に居て天命がないであろう者に応じるものは小人である。

小人に命があれば、君子の道が消える。

今初爻は君を志して、最下位に居る。

だから命があって問題が無くて、輩は福につくのである。

疇とは初爻を指すのである。

〔伊藤東涯の解釋〕
《卦辞》
否は塞がる、匪人は悪人の意󠄃味である。

天地が通じず、上下の意思が通わない様を表す。

世の中が乱れる時である。

君子が正しくしていても、臣下や国民には伝わらない。

悪人が栄え、有徳者は德を隠す。

このような時には、徳のある者は徳を隠し、控えめにするのが良い。

《爻辞》
命は天命を言う。

疇は類の意󠄃味である。

三つの陽は言。離。遭である。

四爻は否にあって中を過ぎている。

丁度泰に戻ろうとしている。

循環帰伏は天命の常である。

陽剛の才を持ちながら君主の傍にいる。

三つの陽は同類である。

ともに福祉を離れる。

泰と否は内外の陰陽が互いに往来する。

だからこの二つは初爻と四爻において、ともに連󠄃類の意󠄃味になる。

君子が君に仕えることは、その時代が如何に閉塞感に包まれていても、この時代から目を背けずに世の中を正そうとする。

少しでも改善される兆候があり、良い位に居たら、その同志を必ず応援し、興復を図るのである。

〔根本通明の解釋〕
《卦辞》
否は塞がるの義である。

天地陰陽の気が塞がっている。

これは地天泰と反対である。

こうした隔絶をつくったのは匪人である。

匪人は人間でなく、悪の最も大なるものである。

君子が正しい政治を行っても災を受け、小人が権力を握る。

このような状態では咎を無くし、誉も出ないように謹慎しなければ危うい。

大往小来は、陽が外の方へ往ってしまい、陰ばかりが内側に来ることである。

[彖伝]
天の気が上にあり下に降ってこない。

地の気は下に滞って上に騰がっていかない。

天地の気が交わらなければ、萬物は生長して往かない。

上は上で高振って下を顧みず、下は下で上を上と思わず尽くす所が無い。

君臣の道も、親子の道も無く、禽獣の住む所と変わらず、人間の国ではない。

外卦は陽爻で内卦は陰爻である。

これを一人の小人とすれば、内の心は柔弱で陰、外は無理に剛を偽って拵える。

朝廷とすれば、内にばかり在って政務を執るのは小人、外に出て遠くの田舎にまで往くのは君子である。

世の中が欲ばかり盛んになれば、道徳は廃れ、君子の正しい道は段々と消滅してくる。

それを小人の道が長じて、君子の道が消するという。

[象伝]
天地陰陽の気が調和せず、萬物は害を受け、人間の身体も病弱になる。

君子は我が身を全うすることを心掛け、なるべく徳を内に仕舞込んで用いない。

徳を外に顕すと小人に憎まれて必ず害を受ける。官から禄を与えるといっても、出れば害に遭うから賢人は出てこない。

そこで営するに禄をもってすべからず。

後世の本には「栄」の字で書いてあるが、古い方の「営」が正しい。

《爻辞》
九四は皇族の賢人で、九五の天子から、乱れた天下を一変させる様、命を受ける。

既に命が出た為に、何所からも咎を受ける事はない。

正しき所を以て、小人を斥け、君子を用いなければいけない。

祉(さいわい:天のくだす福が身にとどまる)に罹る世の中に為って来たから、断然之を行うのが宜しい。

[象伝]
最早命が出て来た。

咎は無く、必ず志が行われるに相違無い。

公に憚る所なく、断然と行う方が宜しい。

9/9 (水) ䷾ 水火旣濟(すいかきせい) 三爻初爻


【運勢】

困難な時が終わりを迎える。

これからの成果が自身に大きく影響するので、中正を守り、進み続けると良い。

初心を忘れず、平安な時も常に注意深くいる事が大切である。

【結果】 ䷾◎三⚪︎初

水火旣濟(すいかきせい) 三爻初爻

《卦辭》

[上爻 少陰][五爻 少陽][四爻 少陰]

[三爻 老陽][二爻 少陰][初爻 老陽]

《爻辭》

[三爻 優先][初爻]

【原文】

《卦辭》

旣濟は亨(とほ)る。小、貞に利し。初めには吉、終はりには亂る。

彖に曰はく、旣濟は亨るとは、小なる者、亨るなり。貞に利しとは、剛柔正して位當たる。初めは吉とは、柔、中を得るなり。終に止まれば則ち亂る。其の道󠄃窮まるなり。

象に曰はく、水、火の上に有るは旣濟。君子以て患を思ひて豫め之を防ぐ。

《爻辭》

[三爻 優先]

九三。高宗、鬼方を伐つ。三年にして之に克(か)つ。小人は用うること勿(なか)れ。

象に曰はく、三年にして之に克つとは、憊(つか)れたるなり。

[初爻]

初九。其の輪を曳く。其の尾を濡す。咎无し。

象に曰はく、其の輪を曳くとは、義咎无きなり。

【解釋】

〔王弼の解釋〕

《卦辭》

旣濟は完全に渡り切ったという意味である。

小は残らず渡り切った。

五爻と二爻が位に当たっているので、邪悪なことは出来ない。

ただ正しければ上手く行くのである。

柔が中を得たら、小はとおるのである。

柔は中を得ていないならば、小はまだ通らない。

小はまだうまく行っていない。

剛で正を得ているといっても、まだ旣に渡り切れていないのである。

だから旣濟の要は柔が中を得るにあるのである。

旣濟を安定となすのは、道󠄃が窮まり進めないからである。

止まるから乱れるのである。

存續している時に亡びることを忘れない。

旣濟は未濟を忘れてはいけない。

《爻辭》

[三爻 優先]

旣に渡りきった時、文明の終わりに居る。

衰えの末に居てよく渡り切ることができる。

君子はここに居て、よく挽回することができる。

小人であったら国を失うだろう。

[初爻]

初爻は旣濟の最初にあたり、初めて川を渡り切ったものである。

まだ川から上がったばかりで、乾いていない。

だから車輪を曳くのに、尾が濡れているのである。

まだ替えを作っていないけれども、心に未練なく、志は難を放棄している。

その義に於いては問題ない。

〔伊藤東涯の解釋〕

《卦辭》

濟は交わり作用しあうことである。

火が下に在って炎上し、水は上に在って下を潤す。

陰陽が互いに作用していることである。

陰陽六爻がそれぞれ正しいところにある。

二爻は陰で中を得て、上には坎つまり止がある。

だから始めは吉を得て、終には止まってしまい、衰乱の時代になる。

治乱盛衰は永遠に互いに作用し続ける。

陰陽が交わり互いに作用し、日が南中しているようであり、月󠄃が満月に近い状態である。

よくうまく行くといっても、ただ小のみである。

大吉ではない。

ただ正しさを守るべきである。

そうしなければ始めはうまく行っても、終いには乱れるのである。

易の戒めるところである。

《爻辭》

[三爻 優先]

高宗とは殷王の武丁である。

廟は高宗といふ。

鬼方とは夷のいる方である。

陽で陽に居る。

剛を作用させる至りである。

天下が旣に定まり、遠方の異民族を伐つ時代である。

まだよい成果がない。

戦争が三年続き、漸く勝利した。

徳の無い者を用いると、いたずらに略奪行為などをして侵略の害が甚だしい。

決して小人を用いてはならない。

國内に憂えが無くなり、遠征するが、なかなか勝てないものである。

国に勢いがあるからと言って武力で周りを脅してはならない。

武力行使は極力避けるべきで、秦の始皇帝や漢󠄃の武帝はこの戒めを忘れてしまい、國に災いをもたらした。

易が強く戒めるところである。

[初爻]

初爻は陽であって下に居る。

上に良く応じるものがあり、其の志は鋭く上昇志向である。

しかし初爻であり、大きなことが出來る立場ではない。

大願は遂󠄅には達成できない。

その車輪は曳かれ、馬は尻尾を濡らす。

そして進むことができない。

過ちはないので咎はない。

時勢には通塞がある。

時は悪くないが、遅れることは免れない。

〔根本通明の解釋〕

《卦辞》

水火相和して、萬物悉く生育する。

何事も亨り達する。

小なるものの二爻目は、主爻となり、陰爻を以て陰位にある。

よって中を得て居り、小なるものが正しくして居る。

内卦は始まりで、萬物が盛んになって来るが、半ばを過ぎれば衰えが出て来るから、油断をせずに対策しなければならない。

[彖伝]

二爻目は柔で陰位にあり、九五は剛で陽位にあり、正しく剛柔である。

険難が除けて、天下泰平になる。

安楽になれば人は動かず、為すべきことを怠って、乱れが起って来る。

[象伝]

水火相和しているというものの、性質で言えば分かれる所がある。

水は火の上に在れば宜しいが、水の性質は下を好む。

又火の氣が何処までも上がり、互いに反対に為って相害する所が出て来る。

安楽なる内に災の出ない様に之を防がなければならない。

《爻辞》

[三爻 優先]

九三は険難を飛び越えて天下太平に為った。

其の熾んなる勢いに乗じて、鬼方を討つため、遠方へ兵を挙げて用いる。

鬼方は北方の蛮夷だが兵力が強く、三年掛かって漸く克った。

併し是れは事を好む小人が起こしたものである。

天子はこのような一仕事を望む小人を用いてはいけない。

[象伝]

三年掛って克ったのは、克っても負けた道理である。

三年もの間遠方へ往って戦った結果、国は極めて憊れてしまって居る。

之は戒むべき事である。

[初爻]

車の輪を曳いて、既に危険なる所を渉り越えて居る。

速やかに陸へ上ぼる事を急がなければいけない。

車を曳く牛が未だ水の中に這入って居るので、尾が濡れて居る内に、人が手伝って早く引き揚げなければならない。

心が緩まなければ、義に於いて咎は無し。

[象伝]

世の中の険難なる所を平げて天下を定めるには、賢人を用いなければいけない。

9/8 (火) ䷷ 火山旅(かざんりょ) 上爻二爻

【運勢】

何事も順調に進んでいたが、行き過ぎて大きく転じてしまい、力を失う事になる。

尊大であったので、周囲からは妬み嫉みを受け、地位と共に信頼も失ってしまう。

良く考え反省し、謙虚に人と接する事で、周囲の信頼を取り戻し、先に進めるだろう。

【結果】 ䷷◎上⚪︎二
火山旅(かざんりょ) 上爻二爻

《卦辭》
[上爻 老陽][五爻 少陰][四爻 少陽]
[三爻 少陽][二爻 老陰][初爻 少陰]

《爻辭》
[上爻 優先][二爻]

【原文】
《卦辭》
旅は小(すこ)し亨(とほ)る。旅、貞なれば吉。

彖に曰はく、旅は小し亨る。柔、中を外に得て、剛に順ふ。止まりて明󠄃に麗(つ)く。是を以て小し亨る。旅、貞なれば吉なり。旅の時義、大なるかな。

象に曰はく、山上に火有るは旅。君子以て明󠄃に慎みて、刑を用ゐて、獄を留めず。

《爻辭》
[上爻 優先]
上九。鳥、其の巢を焚く。旅人先には笑ひ、後には號咷(がうたう)す。牛を易に喪ふ。凶。

象に曰はく、旅を以て上に在り。其の義焚くなり。牛を易に喪ふとは、終に之を聞くこと莫きなり。

[二爻]
六二。旅、次󠄄に卽(つ)く。其の資を懐き、童僕の貞を得たり。

象に曰はく、「童僕の貞を得たり」とは、終ひに尤无きなり。

【解釋】
〔王弼の解釋〕
《卦辭》
貞吉(ていきち)であることには達しておらず、ただ遠くに行くという状況に於いて貞吉なだけである。

だから、特に重ねて「旅貞吉」とあるのである。

物がその主を失うと散る。

柔が剛に乘る。

五爻は剛位に乘り、また外卦の中を得ている。

陰は陽に従って、陽は尊󠄄位を得ていない。

小し亨る。

旅は大いに散る時で、物は元の場所󠄃を失う時である。

《爻辭》
[上爻 優先]
高く危ないところに居て、そこを宅としている。

巣のことである。

家を出て高い位を得た。

だから始めは笑うのである。

旅して上の極みに居る。

民衆が嫉妬するところとなる。

周りに親しい人がいないので、嫉妬の害を免れるすべがない。

必ず凶である。

牛は稼穡の資である。

旅の上に居ると、民衆が皆嫉むところとなる。

そして牛を交易で失うことになり、険難の時に牛が存在せず、交換するものがない。

危ういし、助けがない。

[二爻]
次󠄄は旅先で安んずることである。

二爻は位にあたっており、旅で必ず宿舎を得る。

資金も懐にある。

童僕の正しい者を得る。

〔伊藤東涯の解釋〕
《卦辭》
旅は旅行である。

五爻は陰で、順の徳がある。

安全な場所で、命を待つ状況にないと言っても、柔順の徳がある。

少しはうまく行くのである。

旅で生き抜くには、ただ正しいだけでなく、智略も必要である。

旅の時には、助けてくれる人も必要である。

信用できない人に頼ってはならない。

《爻辭》
[上爻 優先]
易は埸(えき、境)のことである。

この爻は旅にあり、陽で上爻である。

離の極まるところにいる。

高い場所で慢心し災いを招く。

自分で安住の地を失う。

旅人でこのようでは、始めは思い上がっていても好き勝手に高笑いしていても、旣に安住の地を失っているのである。

終には大泣きをすることになる。

そうなっては、柔順の徳を教えても、その德を改めることは出来ない。

牛は柔順なものである。

他人のいうことを聞き入れず、その柔順の徳を失う。

豊かで勢力が盛んな時に在っても、思い上がってしまうと、陰柔の徳を以てしても凶を免れないのである。

それが旅先で順徳を失ったのなら、なおさらである。

[二爻]
旅の途中、柔順で中正である。

必要な資金は懐にあり、さらに心が正しい童僕を得た。

両方とも、道中大変ありがたいものである。

道中最も安定しているといえる。

〔根本通明の解釋〕
《卦辭》
この卦は諸侯でいえば国を失い、大夫でいえば家を失ったものにあたる。

一つ前に䷶雷火豐があるが、これが転倒してしまったのである。

贅沢が過ぎて、身を滅ぼしてしまったのである。

その後、旅に出る。

旅に出ると、威張っていてはどうしようもないので、身を小さくしておくのが良い。

謙遜の態度を守って、正しくしていればうまく行くのである。

[彖傳]
この卦の五爻の陰爻は、元々は䷶雷火豐の時には、内卦にいた。

それが外に出たので、旅をするというのである。

旅に出たはいいが、陰であり独立自尊の気概がない。

そこで、上爻と四爻に依存している。

このようにただ縮こまっていてはいけない。

旅は大変危険なものであるから、ちゃんとした助けが必要で、公明正大な人間についていくべきである。

怪しい人間は避けた方が良い。

[象傳]
山は動かず、火は行き過ぎる。

この二つが同居しているのが旅である。

君子は刑罰を慎まねばならない。

なぜなら、旅に出て、家を離れ、國を離れたものが罪を犯すことがある。

それはその土地の法をよく知らないから、無意識に犯しがちである。

君子は一人一人を大切にしなければならないので、旅人だからと言っていい加減に裁いてはならない。

慎重に刑罰を行うべきである。

《爻辞》
[上爻 優先]
離の卦の極りである。

上の方へ上がる計りで終に禍を受ける。

高い所を好む鳥が巣を焚かれて居場所を失うように、旅人は最初奢り亢ぶっているが、後には家を喪い国を喪う。

そして牛に輓かせて持って来た我が財産を悉く失った。

人の和を得ない所から、遂にこれを奪われることになったのである。

[象傳]
旅人は上に立って人の和を得ない。

そのため人から害を受け、持っているだけの物を悉く奪われた。

残ったのは我が身だけで、居場所も金も無い。

自分の不幸を訴えても話を聞いてくれる者も無い。

[二爻]
二爻は旅の卦の中で一番安定している。

次とは宿のことで、旅人が宿を得たということである。

そればかりではなく、懐には資金があり、童僕もいる。

童僕とは若い召使と年を取った召使である。

二人とも忠誠心があり、旅の友としては最適である。

お金をたくさん持っていても安心である。

[象傳]
童僕が良く尽くしてくれるので、憂えが無くなるのである。

9/7 (月) ䷰ 澤火革(たくかかく) 四爻初爻

【運勢】

世の中が大いに荒れて変革の時期を迎える。

この様な時は自分で考え行動し、迷わず正しさを貫く事が大切である。

相手を否定せず、素直に応じる事で、互いに良い変革を迎えられるだろう。

【結果】 ䷰◎四⚪︎初
澤火革(たくかかく) 四爻初爻

《卦辭》
[上爻 少陰][五爻 少陽][四爻 老陽]
[三爻 少陽][二爻 少陰][初爻 老陽]

《爻辭》
[四爻 優先][初爻]

【原文】
《卦辭》
革は已る日乃ち孚あり。元いに亨る。貞に利し。悔い亡ぶ。

彖に曰はく、革は水火相ひ息し。二女同居して、其の志相得ざるを革と曰ふ。已る日にして乃ち孚あり。革めて之れを信にす。文明にして以て說󠄁(よろこ)ぶ。大いに亨るに正を以てす。革(あらた)めて當る。其の悔い乃ち亡ぶ。天地革りて四時成る。湯武革命。天に順ひて人に應ず。革の時大なるかな。

象に曰はく、澤中に火有るは革。君子以て歷を治めて時を明󠄃にす。

《爻辭》
[四爻 優先]
悔い亡ぶ。改命を孚(まこと)とすること有り。吉。

象に曰はく、改命の吉は志を信ずるなり。

[初爻]
初九。鞏(かた)むるに黃牛の革を用う。

象に曰はく、鞏(かた)むるに黃牛の革を用うとは、以て爲すこと有るべからざるなり。

【解釋】
〔王弼の解釋〕
《卦辭》
民は常識を学ぶことを共にすることが可能であるが、変動に共に適応していくことは難しい。

共に成功を喜ぶことは出来るが、共に事業を始めることを考えるのは難しい。

だから革の道は、即日は誠なく、日が終わる時には誠がある。

誠があって元亨利貞で悔いが滅ぶのである。

日が終わるころに誠が無ければ革に当たらない。

後悔が生じるのである。

変動を生じるものである。

革めて其の悔いに当たれば、悔いを無くせる。

不合に變が生じ、変が生じるところに不合が生じる。

だから不合は革である。

息とは變を生じることである。

火は上に昇ろうとし、澤は下に降りようとする。

水と火が戦い、その後に變が生じる。

二女が同居している。

水と火が近くにあって互いに適合しない。革めるところとなり信があれば、文明の喜びである。

正しいことを履み行う。

そして改める。

天に應じ民に遵う。

大成功する正しいものである。

革めて大成功する。

必ず正しさを失ってはいけない。

《爻辭》
[四爻 優先]
初爻は下卦の最下位に居て四爻は上卦の最下位に居る。

だからよく變ずることができる。

応じるものなく悔い亡ぶ。

水と火の際に居て、変動を体験するはじめである。

後悔はなく、下を疑わない。

志を信じて命を改める。

大願を失わないので吉である。

正直であれば信じられる。

信じられるので命を改められるのである。

さうすれば安んじて間違いはない。

上卦の初めに居てはじめて命を宣言できる。

[初爻]
革の初めである。

道は未だ出来ない。

まだ日常にいる。

まだよく変動に対応できない。

こういう時は普段の取り組みを成就することに力を尽くすのが良い。

牛の革は堅くて変わりようがない。

常中で変動を許さない。

〔伊藤東涯の解釋〕
《卦辭》
革は変革である。

已日は事を終える日のことである。

澤は水である。

火と水が互いに消しあっている。

中女が下に居て、少女が上に居る。

同居して志を一緒にしない。

変革の兆候である。

内は明るく外は喜びである。

智があってよく和す。

其れで革のはじめに居て、疑いを免れないが、最後まで達成できる。

よく互いを信じることが出來、妨害や滞りがない。

その正しさを失わない。

革めて当を得ている。

悔いは亡くなろう。

非常の初めに在り、革の初めである。

人々は旧習に安んじ、疑いや讒謗が生じる。

非常の事をして、人心を察せず、軽挙妄動してはいけない。

初めは疑われるが最後には信を得て悔いはなくなる。

《爻辭》
[四爻 優先]
四爻は革にあり、不中不正である。

君主の傍に居て下に味方がいない。

悔いがあろう。

しかし陽で改革の際に居る。

その弊害を救うことができる。

下も改まった命に従う。

その後に吉となる。

悪弊を改める才があり、悪弊を改める時に居て、二爻はまだ弱く、改まった暁には四爻は位を得る。

誠の心を大切にすべきである。

[初爻]
牛は順の動物。

黄色は中である。

堅く変えることができない。

陽で最下位に居り、上に応じる者がいない。

革めることは成功しない。

中順の德を守り、動かないことである。

軽挙妄動してはいけない。

生来の力に任せて、進んでも成功しない。

害を残すだろう。

君子は中順の徳を守り、災いを避けるのである。

〔根本通明の解釋〕
無し