【運勢】
何事も順調に進んでいたが、行き過ぎて大きく転じてしまい、力を失う事になる。
尊大であったので、周りからは妬み嫉みを受け、地位を失っても誰も助けてはくれない。
何故そうなってしまったのか、良く考え反省し、謙虚に人と接するしか道は無い。
【原文】
《卦辭》
旅は小(すこ)し亨(とほ)る。旅、貞なれば吉。
彖に曰はく、旅は小し亨る。柔、中を外に得て、剛に順ふ。止まりて明󠄃に麗(つ)く。是を以て小し亨る。旅、貞なれば吉なり。旅の時義、大なるかな。
象に曰はく、山上に火有るは旅。君子以て明󠄃に慎みて、刑を用ゐて、獄を留めず。
《爻辭》
上九。鳥、其の巢を焚く。旅人先には笑ひ、後には號咷(がうたう)す。牛を易に喪ふ。凶。
象に曰はく、旅を以て上に在り。其の義焚くなり。牛を易に喪ふとは、終に之を聞くこと莫きなり。
【解釋】
〔王弼の解釋〕
《卦辭》
貞吉(ていきち)であることには達しておらず、ただ遠くに行くという状況に於いて貞吉なだけである。
だから、特に重ねて「旅貞吉」とあるのである。
物がその主を失うと散る。
柔が剛に乘る。
五爻は剛位に乘り、また外卦の中を得ている。
陰は陽に従って、陽は尊󠄄位を得ていない。
小し亨る。
旅は大いに散る時で、物は元の場所󠄃を失う時である。
《爻辭》
高く危ないところに居て、そこを宅としている。
巣のことである。
家を出て高い位を得た。
だから始めは笑うのである。
旅して上の極みに居る。
民衆が嫉妬するところとなる。
周りに親しい人がいないので、嫉妬の害を免れるすべがない。
必ず凶である。
牛は稼穡の資である。
旅の上に居ると、民衆が皆嫉むところとなる。
そして牛を交易で失うことになり、険難の時に牛が存在せず、交換するものがない。
危ういし、助けがない。
〔伊藤東涯の解釋〕
旅は旅行である。
五爻は陰で、順の徳がある。
安全な場所で、命を待つ状況にないと言っても、柔順の徳がある。
少しはうまく行くのである。
旅で生き抜くには、ただ正しいだけでなく、智略も必要である。
旅の時には、助けてくれる人も必要である。
信用できない人に頼ってはならない。
《爻辭》
易は埸(えき、境)のことである。
この爻は旅にあり、陽で上爻である。
離の極まるところにいる。
高い場所で慢心し災いを招く。
自分で安住の地を失う。
旅人でこのようでは、始めは思い上がっていても好き勝手に高笑いしていても、旣に安住の地を失っているのである。
終には大泣きをすることになる。
そうなっては、柔順の徳を教えても、その德を改めることは出来ない。
牛は柔順なものである。
他人のいうことを聞き入れず、その柔順の徳を失う。
豊かで勢力が盛んな時に在っても、思い上がってしまうと、陰柔の徳を以てしても凶を免れないのである。
それが旅先で順徳を失ったのなら、なおさらである。
〔根本通明の解釋〕
《卦辭》
この卦は諸侯でいえば国を失い、大夫でいえば家を失ったものにあたる。
一つ前に䷶雷火豐があるが、これが転倒してしまったのである。
贅沢が過ぎて、身を滅ぼしてしまったのである。
その後、旅に出る。
旅に出ると、威張っていてはどうしようもないので、身を小さくしておくのが良い。
謙遜の態度を守って、正しくしていればうまく行くのである。
[彖傳]
この卦の五爻の陰爻は、元々は䷶雷火豐の時には、内卦にいた。
それが外に出たので、旅をするというのである。
旅に出たはいいが、陰であり独立自尊の気概がない。
そこで、上爻と四爻に依存している。
このようにただ縮こまっていてはいけない。
旅は大変危険なものであるから、ちゃんとした助けが必要で、公明正大な人間についていくべきである。
怪しい人間は避けた方が良い。
[象傳]
山は動かず、火は行き過ぎる。
この二つが同居しているのが旅である。
君子は刑罰を慎まねばならない。
なぜなら、旅に出て、家を離れ、國を離れたものが罪を犯すことがある。
それはその土地の法をよく知らないから、無意識に犯しがちである。
君子は一人一人を大切にしなければならないので、旅人だからと言っていい加減に裁いてはならない。
慎重に刑罰を行うべきである。
《爻辞》
離の卦の極りである。
上の方へ上がる計りで終に禍を受ける。
高い所を好む鳥が巣を焚かれて居場所を失うように、旅人は最初奢り亢ぶっているが、後には家を喪い国を喪う。
そして牛に輓かせて持って来た我が財産を悉く失った。
人の和を得ない所から、遂にこれを奪われることになったのである。
[象伝]
旅人は上に立って人の和を得ない。
そのため人から害を受け、持っているだけの物を悉く奪われた。
残ったのは我が身だけで、居場所も金も無い。
自分の不幸を訴えても話を聞いてくれる者も無い。